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「そう畏まるな。云っただろう、おれのエゴなんだ。船長の我儘で貰ってやったとでも思ってくれ」
「エゴとか我儘とか……よく解らないけど、頼まれたって絶対にそんな事思わないですよ? ドレーク船長が自分のために選んで下さった、それがとっても嬉しいもの!」
 ね? と、目を細めた◆は、胸元の石にそっと手を添える。
「綺麗な石ですね。オレンジ色の石って、ガーネットとかシトリンを想像するけど、比べてこれは凄く優しい色をしてる」
「それは、オレンジムーンストーンだ。時折、月がそんな色で見える時があるな」
 カシャン、と二つの得物を揺らし、◆を飾る一部となった“幸せ者”を見つめる。
「宝石店の店主が教えてくれたが、淡い色合いのムーンストーンは、◆が云った通り、優しい石だそうだ。それに加え、“オレンジ”ムーンストーンは、“前を向いて生きる”と云う意味を持つ、希望の石だと」
 美しいガーネットやファイアーオパールもあったが、ドレーク自身が、その石に強く惹かれてしまった。意味を聞けば、これしかないと即決したのである。
「信念を持って生きる、お前にぴったりだと思ったんだ」
 アクセサリーは好みがあるだろうと思いつつも、彼女のイメージに合い、更に絶対に似合う自信があったのだ。
 我ながらいい選定だった、と満足気に頷き、◆と首飾りをしげしげと眺める。
 すると、その視線を振り切るように、彼女は海の方を向いてしまった。
「どうした?」
「あまり見ないで……照れます」
「ハハ、少しは照れてくれないと、おれの立場がないだろう」
 そう肩をすくめつつ、水平線に背を向けたドレークは、きょとんとしている◆を振り返り、
「ムーンストーンは“聖なる石”とも聞く――夜道を照らす月明かりのように、お前を護ってくれるはずだ」
 と、マントを翻した。
「……はい……」
 彼の言葉を受け、その場にぼーっと立っていた◆は、紙袋の擦れる音に気付き、慌てて振り向いた。
「船長!? 荷物は自分で持ちますって!」
 ベンチに駆け寄るも、置いていた荷は、既にドレークが抱えてしまっている。これ以上、彼に持たせるわけにはいかないと腕を伸ばすも、届かなければ渡してくれる様子もない。
「さあ、船に戻ろう、◆」
 どこか楽しそうに肩を軽く叩かれ、もう! と◆は背の高い彼を見上げた。
 その相貌は常に厳しい色。帽子の影とマスクによって、鋭い瞳が凍てつき、“古代種”の獰猛さもちらつかせている。
 しかし、自分を呼ぶ低い声は、変わらず優しく穏やかで――この首飾りのように――ほっと自分を照らすから。
「ただ見ているだけじゃ、こんなこと、分からなかった……」
「何か云ったか?」
「……っふふ、いいえ? 荷物、ありがとうございます。行きましょう、ドレーク船長」
 微笑みに想いを隠し、二人は高台の公園を後にするのだった。

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