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「おかえりなさい、ドレーク船長」
 カップを置き、椅子から立ち上がった◆の表情が、船を出た時より穏やかになっているのを見て、どこか店主が恨めしくなるドレークである。
「待たせたな、◆。店主、世話になった」
 帽子に手をやってそう云えば、白髪頭の彼はにっこりと頷いた。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとう。もう出航してしまうんだってね? 航海の無事を祈るっておるよ、海賊さん、お嬢さん」
「ありがとう、おじいさん」
 お世話になりました、と頭を下げ、◆は荷物に手を伸ばす。しかし、珈琲豆やお菓子がこれでもかと入った紙袋は、するりと長い腕に掻っ攫われてしまった。
「ッあ、船長!? 自分で持ちます!」
 焦る◆の後ろ、店主の老人と目が合う。
 おそらく紙袋の中身は、おまけでつけてくれたものばかりだろう。“彼”の意味ありげな眼差しで、ドレークはすぐに察しがついた。
 そしてそう、こんな大荷物、親切心だとしても、せいぜい彼女が持てる量に留めるはずだ。が、カウンターにあったのは、◆が両腕でやっと抱えられるサイズの紙袋。しかも二つだ。
 もちろん、ドレークが持つには片腕で事足りるものだが――
 可笑しな気遣いに、やれやれ、と僅かながら口許を緩めれば、老眼鏡の奥はウインクを飛ばしてくれた。
「船長ってば! 待って下さいっ!」
 店主に急ぎ足で礼を云った◆は、先に外に出てしまったドレークを、慌てて追いかける。
「◆、荷物はおれが持つ。その代わり、少し付き合ってくれないか」
「そんな……えっ、船に戻るのでは?」
 承諾を得ぬままにドレークは歩みを進め、船の停泊場所までの道を大きく逸れる。やがて、緩やかながらも長い階段が見えてくる。
「行きたい場所がある。悪いがついてきてくれ」
「……は、はい。分かりました……」
 荷物お願いします――と納得いかなそうな◆を連れ、ドレークは目的地を目指した。
 その道程は、なかなか体力が要るものだったが、二人共元海兵であり、現海賊である。特に息を切らす事なく、“頂上”へと辿り着いた。
「わあ……!!」
 そこは、この島で一番景色が良い場所だった。
「海の見える場所を、珈琲屋の店主に訊いておいた」
 公園のように開けた場所にはベンチやガゼボ、離れた場所にはカフェテラスのある店も見えた。地元の住人たち憩いの場所、と云うにはよく整備されており、とても美しいところだった。
 海の見える高台に、こうして二人で来るのは二度目だ。前回は◆に誘われ、その後CP9と接触する羽目になったが。
「気持ち良い……きれいな景色……っ!!」
 あの時と同じように、◆は嬉しそうに目を細め、フェンスに駆け寄った。
「――良かった、もう笑って貰えないかと」
 すぐ側のベンチに荷物を置いたドレークも、彼女に続く。
「えっ?」
 振り返る◆に首を振り、フェンスに手を置いた。
「本当は、出航してから云おうと思っていたが……お前が上陸したいと申し出たからな」
「……私に御用が……? だからここへ……?」
 前置きに不穏なものを感じたのか、綻んでいた彼女の表情は急に淀む。その不安げな表情に、切り出そうとしていた話が吹っ飛んでしまう。

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