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「…………」
「…………」
 道中は、互いに無言だった。
 二人共、話しかけるべきか迷っていたのではない。
 ドレークはと云えば、別の考え事をしていて黙りこくっており、また◆は、早く用を済ませなければという思いで、足早に目的地に向かっていたのである。
「――着きました。ここです、ドレーク船長」
 街外れに位置する路地の店。場所を覚えていて良かった、と小さな店の前で足を止めた◆は、看板を見上げているドレークを振り返った。
「……珈琲屋か……?」
「船長は外で待たれますか?」
 本当にすぐ終わりますよ、と云う言葉を聞きながら、ドレークは店の前へと進み、彼女より先にドアノブに手を掛けた。
「いや、店主に訊きたい事がある」
「……?」
 首を傾げる◆を促し、ドアを押せば、小気味の良いベルが鳴る。
「いらっしゃ……おお! 昨日の別嬪さんじゃないかい!」
 昨日訪れた時には、店の奥に居た店主だが、今日はカウンターから出迎えてくれた。
「こんにちは。昨日はごめんなさい、何も云わずに出ていってしまって……」
「いやいや、構わないさね! それよりまた会えて嬉しいよ、どうぞ見てってくれ――ところで、そちらの御仁は海賊さんかな?」
 ドレークは店に入ってすぐの場所で、二人のやり取りを眺めていたが、老眼鏡の奥の大きな眼がこちらを向いたので、短く頷く。
「ほォ〜……なるほど、じゃァお嬢さんも海賊なのかい! ウチは狭苦しいし、街外れにあるもんで、島に海賊が来たとしてもこんなとこには来んでなァ。珍しいお客さんだねェ!」
 はっはっは! と笑う老人は、何やら非常に愉しげである。海賊だろうがなんだろうが、客とこうして話す事が好きなのだろうな、と察し、ドレークは少し気持ちが和むのを感じた。
 ◆は、「確かこれだったはず……」と引き出しを調べており、そんな彼女を横目に、カウンターへ歩み寄った。
「時に店主、少し訊ねたい事が――」
 ドレークが店主と話している間に、再び豆を選び、これだと思うものを見つけていた◆は、
「――ありがとう、助かった」
 と云う声に振り向いた。
「いいんだよ、はっはっは!」
 店主はまた軽快に笑っている。
 そして、◆が珈琲豆をカウンターへと運ぶ間に、ドレークは出口のドアへと向かう。
「◆、おれも自分の用を済ませてくる。その間、ここで待っていてくれ。用心して、店の外には出るな」
「はい、船長」
 すると、店主はカウンターからフロアに出てくると、◆へ椅子に掛けるよう勧め、ドレークには誇らしげに笑った。
「大丈夫さ、海賊さん! 何があってもこの爺が、お嬢さんを守るからねェ」
「……フフ、頼んだぞ」
 そう云って、マントを翻したドレークは、街へと戻っていった。
 船長を待つ間、◆は無事、目当ての珈琲豆を手に入れ、美味しい淹れ方や、他にもおすすめの豆を店主に聞く事が出来た。更に、幾つか試飲をさせて貰っていれば、あっという間に小一時間が過ぎ。
 再びドアのベルが鳴った時には、二人はコーヒーカップと小さなチョコレートで、非常にのんびりとしたコーヒータイムを過ごしていた。

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