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 静かにそう応えれば、◆は突然勢いよく頭を下げた。
「私を――私を、ドレーク海賊団に入れて下さい!!」
 思わぬ行動と言葉に、ドレークは本日何回目か分からぬたじろぎを見せる。
「――なっ、何……!?」
「仲間に入れて欲しいんです! 私、長い間一人で航海してきたから、航海術もあるし他にも色々……あと、足手纏いにならないくらいの戦闘の腕もあります。決して、ドレーク船長の旅の邪魔はしません……だから、私を連れて行って下さい!!」
 ようやく言葉の意味が把握出来たドレークは、眉間に皺を寄せ、腕を組んだ。
「海賊になってどうする。お前は小説家だろう」
「……新しい本が書きたいから。取材の為と云ったら怒られてしまうかもしれないけど、物書きとしての私のポリシーは“実際の場に立って書く事”だから……海軍モノを書く時は海兵でないと、海賊モノを書く時は海賊でないと、私が書きたいものは書けないんです」
 ◆の熱意は伝わるが、ドレークは首を振った。
「駄目だ。海は非常に危険だぞ、命を落とす事だってある。お前は小説家――たかだか本を書くくらいで海賊になって、命の危険に晒されたらどうする」
 すると、◆は目を見開いた。端正な顔が一気に険しくなる。
「たかだか、なんて……ドレーク船長がそう云う事を云う人だとは思わなかった」
 静かな怒りを持つその声に、ドレークはしまった、と心の中で思う。
「私は本を書く時は信念を持っています。誰になんと云われようと、それは決して折らせはしない私の誇り。真実に迫って読み手を引き込み、楽しませながら真実を伝えるの。……あなたもそうでしょう、信念を持ってこの海を進んでる。海軍将校のあなたが海賊になった理由は――身を落とす事を決めたのは、自分が持つ信念を貫くためではないの?」
 ◆は試すようにドレークを見上げる。さすがのドレークも言葉を返せなかった。
「……すまない。失言を許してくれ」
 素直にそう謝れば、◆はゆるりと首を振る。
「あなたがそう云ってくれた気持ちは分かります。優しい人だもの」
 ドレークは◆の言葉に少々引っかかりを感じ、首を傾げた。
「お前は時々おれを知っている風に話すが……そんなにおれに詳しいのか?」
 すると、◆は少々ギクッとした表情を見せるが、そんな事よりも、と話を戻す。
「ここで逢えたのも何かの縁あってこそ。今あなたの手を放したら、もう二度と逢えないかもしれない。海は一期一会だから、私はこの機会を逃したくないんです――お願いです、ドレーク船長!」
 ◆はドレークの黒革の手を取り、ぎゅっと両手で握る。
「……」

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