14/06/06〜15/03/06
トラファルガー・ロー

21時08分、船長室にて。



「ロー……あのね、あの……ッ私! “できた”みたい、です!!」
 話があるの、と船長室のドアをノックしてから、およそ半刻。
 なかなか切り出せない私の向かいのソファで欠伸をしていたロー。意を決し、叫ぶように報告すれば、医学書をめくる彼の手が止まった。
「…………そうか」
 そう短く答えたローはいつもと変わらない少々怖い表情のまま、閉じた本を脇に置こうとして落とし、面倒臭そうに拾ってソファに放る。
「――気分は」
「ん? んー、ちょっと気持ち悪いかなってくらい」
「……熱は」
「少し」
「……頭痛とか、眠気は」
「あー、あるね」
 “死の外科医”の異名はあれど医者である事に変わりはない。さすがと云うべきか、ローは冷静に淡々と問診をしていく。と云ってもカルテなどは必要無く、その手はマグに新しくコーヒーを注いでいる。
「明日、しっかりと検査する。お前は普段からヘモグロビン濃度が――」
「あ、うん、あのさ、ごめん、ロー」
 貧血の事かなと思いつつ、私はローの手元が気になって言葉を遮った。
「あ?」
「えっと、ローってコーヒーにお砂糖入れるっけ?」
 かなりの年月を共に過ごしているけれど、ミルクすら入れるのを見た事がない。にも関わらず、先程からドボドボと角砂糖を落としている。私でさえ入れない量。
「……」
 ローは徐ろにマグを見るも、そのままスプーンでそれを少々乱暴な手つきでかき回し、手に取る。口につける寸前、イエローのシャツにコーヒーをダバダバと零し……何故か全然気付いていないようだ。
「あのー、ロー? 零してるけど平気……?」
「――? ッ、熱……!!」
 豪快なシミにやっと気付き、ローは急いでマグをテーブルに置く、それはひっくり返る。布巾を取る、そのせいでシュガーポットが倒れる。それを直そうとして再びマグを倒す――
「ふ、ふふっ……何やってるの? ふふ、あはははっ!」
 堪えきれずに笑ってしまうのは仕方がないと云うもの。
 目の前に居る、“いい噂を聞かない”と云われる船長は億超えルーキーの一人――もう“王下七武海”と呼ぶべきか――そんな彼が酷く“動揺”しているのだから。
 テーブルを片しながら笑い続ける私を、ローがジロリと睨みつけてきた。
「もう、そんな顔しないの。――ねえ、その慌てっぷりは嬉しいから? それとも逆?」
「……下らねェ質問するな」
 フン、と不貞腐れたようにそっぽを向き、使い物にならなくなったシャツを脱いだローは、立ち上がって船室の奥へと向かう。
「明かり消せ、寝るぞ」
 ベッドに入るには早過ぎる時間だったけれど、反論すれば「これから夜更しは禁止だ」とか云い出すのは目に見えていたから、素直に従う事にした。
「嬉しいね」
 明かりを消して、先にベッドに入ったローの背中にぴったり擦り寄れば、彼は軽く身じろいだ後、観念するかのような溜め息を吐いた。
「…………あァ」
 それは本当に短く、衣擦れの音に紛れてしまいそうな声だったけれど。
 とてもやさしい、ローの気持ちだった。
 思わず喉の奥が熱くなって、それを誤魔化すようにローの手を握るも、冷たくて大きな手にギュッと握り返されて、やっぱり少し泣いてしまった。
 ――明日からがんばらなくちゃ。
 そんな事を思って心地良い眠りについた後、ローが堪らなくやさしい笑みを浮かべながら、私の頭を撫でていた事は、もちろん誰も知らない。




 Fin.









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 アヤセ様リク「ローと妊娠話」でした。リクエスト頂きありがとうございました^^
 こういう系のお話は書いた事が無かったので、とッッても難しかったです! 最初の言葉とか何度も変えました。でも絶対コーヒーは零すと最初から決めてて笑。ローは聞かされた瞬間から、男の子ならこの名前、女の子だったらあんな服を着せようとか考え出す事でしょう。ヒロインはこれから一瞬たりとも目を離して貰えなそうですね〜。
 自分はこういう願望が全く無いのですが、この拍手にはかなりの反響を頂きました。そんな皆さんが可愛いと思いました。
 拍手&コメント、どうもありがとうございました!

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