13/02/25〜14/06/06
ポートガス・D・エース

ぬれた前髪にふれる



 エースと手を繋いで歩くのが幸せだ。
「何で急にデート?」
 手を引かれながら私は訊ねる。
「だってよ、船じゃァ“ムード”ってのがねェだろ? 船ン中は野郎ばっかでムサ苦しいし、姐さん達にも冷やかされるし……ゆっくり出来ねェ」
「エースが“ムード”を気にするの? 私はエースと居る事を冷やかされても嬉しいくらいだけどなあ」
 まだ早朝だと云うのに「デートだ!」と連れ出されたはいいけれど、街の方はまだ準備の最中で、お店も開いているところは少ない。
「そういう可愛い事はみんなの前で云ってくれよ」
 自慢出来るだろ、とこちらを振り向いて見せる笑顔は本当に眩しい。心臓を抱きしめられるようで。
「ふふ、好きだよ。エース」
「っ……、お前……だからそーゆー事はよ……」
 エースは足を止めて、繋いでいない方の手で帽子を深く被り、顔を隠した。
「照れてるの?」
「あァ、照れてる」
「“デート”って恥ずかしげもなく云うくせに」
 くすくすと笑って、さてこの隊長様をどうしようかと周囲を見回すと、少し先に果物屋さんがあるのに気付く。
「あ、エース! マルコ隊長が見てるよ!」
「えッ!? マルコ!?」
 ガバッと顔を上げたエースを引っ張り、果物屋の店先に並ぶパイナップルの前に連れて行く。
「ほら! マルコ隊長、おはようございまーす!」
「お前……怒られるぞ?」
 そう云いながらも笑うエースに頭を撫でられる。
「“デート”ってよ、おれにはよく分からねェ。けど、二人でこうしてのんびりしてェなと思ったんだ。だから連れて来ちまった……迷惑だったか?」
「まさか。まあ、エースと朝寝坊するのも好きだけどね。うん、エースと一緒に居られるなら何でもいいよ」
 あたたかい手を少し強く握ってそう云えば、エースはじっと私の顔を見つめた。
「エース?」
 少し身を屈めたエースに、ああキスされるなと思った瞬間。
「ぶわッ!?」
 店先から水が飛んできて、エースの顔に命中した。
「うわっ、すまんすまん!」
 果物屋の店主らしき人が飛んでくる。どうやら何気なく水を撒いた先にエースの顔があったみたいだけれど、それにしてもピンポイント過ぎる。
「ごめんなァ、にーちゃん、ねーちゃん! わざとじゃねェんだっ」
 いいところで邪魔されたエースは濡れたまま、不貞腐れた顔をしている。
「ほらほら、エース。笑ってよ」
 水が滴る濡れそぼった前髪に触れれば、エースはプッと吹き出した。
「ハハハ、おっさん! 何してくれんだよ!」
「すまんすまん! 詫びにこれ持ってってくれ!」
 謝りつつも笑っている店主が袋に幾つか果物を詰めてくれた。
「あ、マルコ隊長までくれちゃった」
「だからそれ、怒られるって」
 店主に礼を云い、袋を下げたエースはまだ笑っていて。能力のおかげか濡れた部分はすっかり乾いていたけれど。
 そっと前髪に触れた。
「ん、まだ濡れてるか?」
「ううん。――さ、デートの続きしよ」
「……おう」
 私が手を引いて歩き出せば、エースは柔らかく笑って隣を歩く。
 エースと一緒なら、どこでも――水を被ったとしても“素敵なデート”になるのだと伝えたら、再び帽子で顔を隠してしまうのだろうか。けれど、今は両手が塞がってるから、きっと照れた顔をばっちり拝めるはず。
「ね、エース……」




 Fin.









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 スパルナ様リク「エースとデート」でした。リクありがとうございます^^
 とても気に入っているお話です。素直なヒロイン、照れるエース、不貞腐れるエース、パイナップル隊長など、色んなネタが入れられました。尺の関係で削ったのですが、この島は白ひげ御用達で住民は息子たちに慣れていると云う設定がありました。
 拍手&コメント、どうもありがとうございました!

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