朝食後の小休止
 ローが朝食の時間ピッタリに現れた事など滅多に無い。いつも遅れてやって来て――今も不機嫌そうに用意された朝食を黙々と口に運んでいる。
「……また今日は一段と濃いけど」
 何がだ、とローは聞いてこなかった。チーズで出来たパンケーキをもそもそと食べる姿は船長にあらず。
 ◆は肩をすくめて辺りを見回した。クルー達は既に朝食を終え、◆とロー以外は食堂に居ない。
「いつも思うんだけど、一体何をして夜更かししてるの? 何でクマが出来ちゃうわけ?」
「酸素を含まねェヘモグロビンのせいだ。血流が悪ィんだよ」
 しれっと云ったローは、食べ終えた皿をキッチンへ運んで行った。
「そう云う事聞いてるんじゃないんですけど……! 眠る前に何をしてるのかって聞いてるの」
 テーブルに戻って来るローを少し睨みながら、◆は口を尖らせる。これでも自分は心配しているのだ。
 ローは元の席には座らず、◆の隣の席に腰掛け、テーブルに置いてあるグラスを取った。朝っぱらからウォッカなんぞを飲むのは、やはりノースブルー育ちだからなのだろうか。
 グイッとそれを飲み、ローは◆の顔を覗き込んだ。
「気になるか?」
 少し擦れた声が耳に掛かり、◆は顔が熱くなるのを感じた。それを見たローが横でニヤリと笑ったのが分かる。
「そ、そりゃそうでしょ! 寝不足じゃ疲れも取れないだろうし……!」
 焦ったように口走る◆の横顔を、ローは面白そうに見つめている。
「毎日生きるか死ぬかの海賊船に乗ってる以上、体調管理には気をつ」
「おれは医者だ。おれが寝不足のせいでやられた事なんか無ェだろう」
 ◆の言葉を遮り、ローは何故か得意げにそう云ってグラスを置いた。
「……そんな事あったらベポと船長交代ね」
 ハァ、と溜め息を吐く◆に、ローは喉で笑うと、
「あっちに座れ」
 と、後ろの壁沿いに置いてある寛ぎ用のソファを顎で指した。
「何で座るところを指定されなきゃならないの……」
 そう云いながらも、◆も従ってしまうのだから、自分で自分に呆れてしまう。
 ポフッと座り心地の良いソファに腰掛けると、ローは◆の足を枕にしてソファに横になってしまった。
「――! ちょ、ちょっと! 何してんの!?」
「朝食後の小休止ってトコだ、まだ寝足りねェからな」
 有無を言わさず帽子を◆に渡し、ローは満足そうに目を閉じる。
「さァ、ヘモグロビンに酸素をやるとするか……」
 可笑しな独り言を残し、ローは眠りの世界へと数秒で旅立ってしまった。
「……もー……」
 本日二度目の溜め息を吐き、◆は午前中にしようと思っていた仕事を諦めた。寝不足を心配する身としては、ここで起こす事も出来ない。
 それにだ。こんな無防備な寝顔を見せられては、傍にあったブランケットを掛けてやる他無い。
「小休止って……お昼過ぎまでずっと寝てるくせに」
 悔し紛れの悪態を小さくつきながら、ローの目の下をそっと撫でれば、くすぐったそうに子供のように身を捩るものだから、◆も思わず口元を緩めてしまっていた。
(今夜は私が見張っててあげよ……)
 その決心が何故か違う意味で捉えられてしまい、ローに泣かされる羽目になるのはまた別のお話。



 END.













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 ローでした! 低血圧で朝に弱いイメージがあるので……夜更かしって一体何をしてんでしょうね! 私も無駄に夜更かししますけど。
 こういうクルー以上恋人未満な関係を書くのが好きみたいだなあ。ちなみに、ローが食べているのはロシアの朝食“スィルニキ”です。

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