早朝の戯れ
四点鐘がなり、六時を知らせた。
夢の中に居た◆は、遠くの方で鐘の音が響くのを感じてはいたが、まだ起きる気にはなれなかった。それに朝食は八時だし、まだ二時間も眠れると、毛布を手繰り寄せた。
「……おい、◆……」
擦れた声が聞こえた気がして、◆は目を閉じたまま小さく唸る。
「ん……なあに……キッド……」
自分を呼んだのは、隣に眠る筈のキャプテン様である。自分より早く起きる事はまず無いので寝言かもしれないと、また毛布を引っ張った。
「◆、おい」
今度はハッキリとした声が聞こえ、◆は眉間に皺を寄せ、ゆっくりと目を開ける。
「んん……何ってば……」
「何、じゃねェんだよ。毛布全部持ってくんじゃねェ。寒ィんだよ、アホ」
へ、と起き上がり、薄暗い部屋で目を凝らしてみれば、上半身剥き出しのキッドは何も掛けておらず、自分が毛布を独り占めしているのが分かる。けれど今包まっている毛布を分けても、キッドの方が体が大きいから、ほとんど持っていかれてしまう気がして素直に渡す気になれない。
「さっさと半分寄こせ、◆」
「服を着たらいいんじゃない?」
「は?」
名案でしょう! とニコッと笑った◆は、そのまま何も無かったかのように、キッドに背を向けて寝転んだ。
「っと待て、てめェ」
途端に肩に掛かっていた毛布をガシッと掴まれ、頑張って抵抗してみるものの、バサリと剥がされてしまった。
「わあああ、何すんのキッド! さむ、寒いから! 返してよーっ!」
ベッドから起き上がって振り向けば、勝ち誇ったように笑ったキッドは、毛布を◆に渡すまいと自分の体に巻きつけて横になる。
どんなに引っ張っても剥がそうとしても、キッドの体から離れない毛布に、◆はハァと溜め息を吐いた。
「まだ起きる時間じゃねェんだ、暴れてねェで眠れ」
仰向けになったキッドは頭の下で両手を組み、ククッと笑う。
「……じゃあいいもん。キラーのとこに行って一緒に寝て貰う」
キラーは優しいから、自分に毛布を譲ってくれる気がするしと、ひんやりした床にある靴に足を降ろした時だった。
「そりゃァ聞き捨てならねェ話だな」
グイッと腕を引っ張られ、バランスを失った◆の体はバフッとベッドに転がる。抗議しようと口を開きかけた◆に、今度は毛布が頭からバサリと掛けられた。
なかなか乱暴だったが毛布はぬくい。
まだ眠気が残っていた◆は、しばらくキッドの動きが無いのをいい事に、そのまま寝てしまおうとしていた。
すると毛布が捲られ、キッドの仏頂面が覗いてくる。
「寝ようとしてんじゃねェ」
「だってあったかいんだもの」
キッドも入れば? と云えば、やれやれと頭を振りながら毛布に潜り込んできた。
「やっぱりこの毛布小さい……キッドが入ると私の肩が出そうになってスースーする」
なるべく中に入ろうとして文句を云えば、キッドは◆に腕を回し、グイッと自分に引き寄せ、そのままぎゅっと抱きしめた。
「仕方無ェ……次の島でデカイのを買うか。それまではこうするしか無ェな……他の野郎のとこになんざ行かせねェし、こうしてりゃァあったけェ」
一石二鳥だろう、と得意げに笑うキッドの赤い髪を撫でながら、◆はクスクス笑う。
「大きな毛布を買ったら、こうしてくれなくなるの? それだったらこのままでいい」
そう云って◆がキッドの胸に額を寄せれば、頭上から小さく、
「アホか」
と云う声が落ちてきた。
「お前の方こそ……おれに抱かれなくなったら、おれの方から毛布を焼き捨ててやる。まァ、まずそんな事させねェけどな」
自信満々の言葉に、◆はフフッと笑って、キッドの腰に腕を回した。
お互いの温もりがあれば、本当は毛布の大きさなど関係無く、何も必要無い気さえしてしまうのは、やはりキッドの存在が大きいからなのだろう。
そして、同じように愛情を返してくれるキッドの温もりが何より愛しくて、◆は同じ夢を見れるようにと、ぴったりとキッドに寄り添って目を閉じるのであった。
END.
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第二弾はキッドでした。そう云えばキッドでピロートークを書いた事無かったなと思いまして……でもコレ、ピロートークと云うか毛布の取り合いと云うか。
海賊船の中で船長でもダブルベッドは難しいだろうと思い、セミダブルくらいのイメージです。キッドはガタイが良いので、ダブルでも二人で寝たら毛布とかは足りなそうな気がします。
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