時計
 昼下がり、ソワソワと宮殿内を歩き回る男が一人。
「ペル? さっきから何をやってるの?」
 中庭でカルーを洗ってやっていたビビは、渡り廊下を通る護衛隊副官に声を掛けた。彼がここを通るのは、気付いてから少なくとも五回目だ。
「ああ、ビビ様……すみません」
 カルーもリラックスタイムに気が散ったと、少々迷惑そうにクエッ! と鳴く。
 足を止めて廊下の柵に項垂れたペルは、懐中時計を取り出し、ハァと溜め息を吐いた。らしくないその姿にビビはカルーと顔を見合わせ、首を傾げる。
「訓練は今日はお休み?」
「そうです。だからゆっくり出来ると思っていたのですが、その……買い出しから早く戻らないかと待っているのです」
「――買い出し? ああ! ◆の事ね!」
 ペルの行動の謎が解けた、とビビが笑うも、カルーはまだ眉間に皺を寄せている。
「◆はペルの恋人よ、カルー。ペルはいつも待たせているんだから、少しは待ちくたびれてみなさい? それに、買い出しからまだ二時間も経ってないわ」
「ええ……私も待たされる側になるべく、こうして時計と睨めっこしているのですが。でも手持ち無沙汰と云うか、もう個人訓練でもしてしまおうかと」
「あら、ダメよ。ちゃんと待っていなきゃ」
 かなり参った様子のペルに、ビビはクスクス笑いながら、ブラシをカルーの羽へかけていく。
「◆は夜、いつもここでペルの帰りを待ってるんだから。怒られちゃうからって、あんまり遅いと部屋に戻るけど」
「…………存じております」
 いつだったか、見回りからの帰りを待つ◆をたしなめた事があった。夜遅くまで中庭に佇み、冷えた体を擦りながらもひたすらに自分を待っていた――その姿にこみ上げる愛しさ。お帰りなさい、と落とされるキスに癒されないわけがない。
「ペル、顔が緩んでる」
「ッゴホン――失礼を」
 帰りが遅くなる日は部屋で自分を待っている◆。眠気を噛み殺し、ベッドの上から目を擦りながら迎えられるのも、疲れた体に沁み渡ると云うものだ。
「……もう、“アラバスタ最強の戦士”も恋人の事になると形無しね」
 肩をすくめ、ビビは心地良さそうに目を細めているカルーを撫でた。
「――? あら、帰ってきたみたい」
 にわかに宮殿内から賑やかな声が聞こえてくる。時折上がるテラコッタさんの豪快な笑い声に、ペルを見やれば。
「さすが“隼のペル”!!」
 そこにはもう護衛隊副官の姿は無く、柵の上に開いたまま置かれた懐中時計には、ヒラヒラと羽が落ちてくる。
「ステキね、カルー。私にも、あんな風に大切に想い合える相手が、いつか出来るかしら」
 一際賑やかになった方を仰ぐと、ビビはタオルで手を拭い、忘れられた時計を手に取った。
「クエッ! クエッ、クエー!」
「ふふ、分かってる。私にはカルーが居るわね」
 今頃、ペルと◆は周りに冷やかされており、そこには多分、コブラ国王の姿もあって――式はいつにするだの、ビビ様より先には嫁げないだの盛り上がっている事だろう。
「いつでも待っていてくれる人が居るのは、心強いもの」
 そう微笑み、どこか誇らしげなカルーを抱きしめながら、時計を掴んだ左腕を青い空へ掲げるのだった。



 END.













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 拍手お礼SS「待合室」、「ラブアンドピース、アンドユー」に続く二人のお話だったり。
 サイト名にちなんでお題を貰ってきたのですが「時計」は自分で追加したものです。なのにあまり「時計」が出てきてません。しかもヒロインは名前しか出てないし、むしろビビの話になっていると云う……! ヒロインが知らないところで話題になってると云うものを書きたかったのです。
 ペルもほんとにヒロイン大好きね〜と云う感じで書いてますが伝われば嬉しいです。出迎えるペルの事も、ビビとした話の事もみんなに冷やかされればいいです!

 そんなわけで、「1周年&10万打」の企画として始めたものが「もうすぐ6周年&120万打」になってしまいました。亀更新とも云えないこの体たらくではありますが、物理的に書けなくなるまで続けたい所存です。
 いつも応援頂き、本当にありがとうございます。これからもなんとな〜くゆるやか〜によろしくお願いします。

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