真夜中の誓い
「待てよ、◆ッ! 誤解だって!!」
 夜更しをするクルーと見張り番だけが起きている深夜。静かに波打つ音と、グラスの氷が溶ける音と、ささやかな談話、そして寝息が船を包む時間。
 そんな中、焦ったような男の声が響き渡る。
「何だァ? 騒がしいぞォ」
 いい具合に酔ったサッチが食堂のドアから顔を出せば、甲板で若いクルーがバタバタと走り回っている。何かを追いかけているらしく、前を見てみればタオルケットを巻いただけの女クルーが走っていた。
「来ないでよ、バカエース!!」
「エース……と、◆? ――何やってんだ、アイツら」
 よく見れば、エースも下着一枚の姿である。
「大方、あのバカが“最中”に、違う女の名前でも呼んだんだろうよい」
 サッチの後ろから、マルコがダルそうに欠伸をし、二人の様子を覗く。
「あ〜……やっちまったな、アイツ。これで何度目だ?」
「さァねェ。あんなイイ女がいるってのに、バカのする事はよく解らねェよい」
 バカ、もといエース――その恋人である◆は、一番隊のメンバーである。二人の付き合いは長いし仲はとても良好だが、時折エースの軽さがそれを危うくさせていた。
「◆! とりあえず話し合おう!?」
「うるさいバカ! ご自慢のソレも燃えちゃえ浮気者!!」
 全くハタ迷惑な事だが皆慣れたもので、顔を出したクルーは騒がしさの原因を確認すると、肩をすくめつつ船室へと戻っていった。
「アイツなァ、自分からは行かねェけど、誘われるとついてっちまうんだよなァ」
「◆がいないならそれでも構わねェが……そろそろ強制的に別れさせるか――◆はウチの大事な隊員だよい」
 酷くかったるそうに首筋を掻くマルコに、サッチは苦笑する。
「ンな事云ってよ、出来るわけ無ェだろ? 結局二人とも――」
 と、その時。ひと際大きな悲鳴が上がった。
 見れば、エースは◆の捕獲に成功したようで、エースの腕の中で暴れる◆が見える。
「放してよ、他の女を抱いた手で触んないで!!」
「っだ! ちょ、覇気纏って殴るな、痛ェ!!」
 ロギア系であるエースが殴られる姿は貴重である。
 サッチがニヤニヤと面白そうに眺めている横で、よくタオルケットが外れねェよい、とマルコも少々外れた事を考えながら観戦する。
「クルエラって誰! その女がいいんだったらそっちに行けばいいでしょ!? 私は……っエースだけ、好き、なのに――ッ!!」
 涙を必死にこらえようとする◆の一撃が見事に決まり、エースはよろけて甲板へ倒れ込む。が、抱えている◆を庇って倒れたのは、遠目でも分かった。
「――おれも、◆だけが好きだ」
 甲板に仰向けになったまま、腹の上の◆を見上げ、エースが云った。真面目な表情だったが、片鼻からは鼻血が垂れている。
「おれが好きなのは◆だけだ」
 真摯な黒い瞳に射抜かれ、◆は唇を噛んだ。
 卑怯だねェ、とサッチはあごヒゲを撫でながら呟く。エースの言葉にも想いにも嘘は無い。だからこそタチが悪い。
「誓うよ、◆。――おれの一番はお前だけだ」
 な? と鼻血を拭ったエースが云えば、◆が小さく頷く。それに微笑み、上体を起こすと、◆はエースのむき出しの肌に抱きついた。エースもまた、タオルケット一枚の◆の体に腕を回し、あやすようにポンポンと背中を撫でる。
「“結局、二人とも互いにベタ惚れだ”って云いたかったのかよい」
 とんだ茶番だったよい、とマルコはポケットから煙草を取り出して火をつける。サッチはと云えば、なんだもう終わりかと手を頭の後ろで組み、食堂へ戻る為に甲板に背を向けた。
「んー、それも当たってるが、おれのは少し違ェな」
 フゥ、と溜め息ごと煙を吐いたマルコを振り返り、サッチは眉を下げて笑う。
「“二人とも、バカだ”って事よ」
「あァ……云えてるよい……」
 真夜中に誓いを立てるバカと、何度目か分からぬ誓いを受け入れるバカか――と、マルコは甲板で抱き合う二人を肩越しに見やってから、煙草を咥えて食堂のドアを静かに閉めたのだった。



 END.













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 バカバカ連呼しててすみません……しかもヒロインもおバカって事に! 決して頭の弱い意味じゃないんですがバカップルです。
 エースのイメージ崩壊も甚だしいですが、こういうのもアリかなと。「迷子の〜」のエースは割と硬派なので。あ、浮気相手の名は某ヴィランズから借りました。
 第三者目線の、マルコとサッチのやり取りは書いてて楽しかったです。初書きでした。
 とりあえず、これはギャグなんでしょうね。

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