銀色の砂漠に浮かぶ(ペル) (1/1)
 真夜中に、何故かパチリと目が覚めた。
 護衛隊・副官には広くはないが個室が与えられており、ペルは起き上がってその部屋を見渡す。今夜は月が明るいらしく、窓のカーテンの隙間から銀色の光が床を照らしている。
 少し外の空気でも吸おうかと、ベッドから降りて静かに部屋を出た。
 宮殿の入り口などでは兵士が交替で見張りをしているが、中庭の見張りは無い。月に照らされた緑が豊かに茂るオアシスに、ペルは足を踏み入れる。
「……◆?」
 しかし、誰も居ない筈の中庭には、一人の少女が佇んでいた。
「あら、ペル。こんな時間にどうしたの?」
 訝しげに近付いた先に居たのは、ペルと同じく王家に仕える◆だった。
 護衛隊の事務を担当している◆は、ビビ王女と同い年であり仲が良い。ペルにとっては歳の離れた部下ではあるが、妹のように可愛がっており、それをよくイガラムやチャカにからかわれていた。
「それはこちらの台詞です……。私はどうしてか目が覚めてしまったので、少し外に出ようとここへ来たのですよ」
 ペルがそう云うと◆は、ふうんと頷き、傍にあったベンチに腰を下ろす。
「私はね……今夜みたいに月が明るい夜は、どうしても寝付けなくて……何だか、凄く胸がざわつくの」
 少し苦しそうに話す◆の隣に、ペルはそっと腰掛けた。
「いつも……そうなのですか?」
「うん。部屋に居て悶々としてるより、こうして月を眺めてる方が楽になれるから、いつもここに来るの」
 そう笑って、◆はまた空を見上げる。
「砂漠の月はとっても綺麗。知ってる? アラバスタで見る月が一番綺麗だってビビ様が――」
 言葉が途切れてしまったのは、きっとペルが◆の頭にそっと手を乗せたからだろう。
 きょとん、と月から自分に視線を移す◆の頭を、ペルはゆっくりと撫でる。
「……無理に、笑わなくて良いのですよ」
「――!」
 ◆の虹彩に驚きが混じり、潤んでいく。
「今は、月と私しか見ていませんから」
 撫でながら優しく諭すようにそう云えば、◆は目を伏せた。一つ二つ、雫が零れる。
「……ペル……少し、胸を貸して……っくれる……?」
 震える声に、ペルはそのまま◆を抱き寄せた。
「どうぞ、◆の気が済むまで」
 お貸ししましょう、と云うと、◆は肩を震わせながら頷く。
「ありがと……ペル……っ」
 擦れた声で微笑み、ぎゅうと抱き付いてくる◆を、ペルはしっかりと抱き締め、ふわりと注ぐ温もりに顔を上げた。
 そこに浮かぶ恐ろしく美しい月は、眩しくも柔らかい銀色の明かりで二人を包んでいる。
 ここに二人を呼んでくれた月に感謝しながら、ペルは愛しい人の哀しみが溶けて消えるようにと願うのだった。



 END.




 110223

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