笑顔の理由(Mr.2 ボン・クレー) (1/1)
「――って云われたの」
いつものカフェテラスで、いつものアイスティーを頼み、いつものように“彼”に話す。
「何よソレ!? ジョ〜ダンじゃなーいわよう!!」
「でしょう!? でも私、云い訳しなかったよ……グッと堪えたの」
私の愚痴をウンウン、と強く頷いてくれる彼――いや、“オカマ”は私の仕事仲間であり、良き理解者。
「偉いわよう、◆!」
あちし、褒める!! と、頭を優しくポンポンと叩いてくれるボンちゃんには、ついつい甘えてしまう。ボンちゃんはいつも真剣に、愚痴でも自慢話でも世間話でも何でも聞いてくれる。
「何を云われようと、自分の信念を突き通すのよう!? それがオカマ道!!」
そして必ずオカマの格言を云うボンちゃん。それは、私の“あやふや”な気持ちを真っ直ぐ正してくれる。
「ふー……ボンちゃんに話したらスッキリした! また明日から仕事頑張れる!!」
アイスティーが無くなる頃、今日の私の愚痴コーナーは終わる。
んー! と背伸びをする私に、ボンちゃんはタコパフェをガツガツ食べながら、少しだけ顔をしかめた。
「◆、アナタは頑張り屋さんだし、そんなところは大好きよう? だけど頑張り過ぎないようにねい。あちし、それが心配なのよう!」
「大丈夫、ボンちゃんとこうして話してるのが一番元気貰えてるから。ありがとね……ボンちゃん」
ボンちゃんも忙しいのに――と云えば、バッと席を立ったボンちゃんはクルクルと回り出す。
「なーに云ってんのよーう!! ダチなんだから、これくらい当たり前なのよーう!!!」
「ふふっ……そ?」
でも本当、ありがとう……と心の中で思う。こんなにダチ想いのオカマは居ない。
「アンタは笑ってた方が良いわっ、あちしが云うんだから間違いないわよう!」
「うん……笑ってるー!」
落ち込んだ時はボンちゃんのあったかい言葉を思い出すようにしている。友情を一番大事にするオカマの鑑が口にする言葉には、嘘もお世辞も無いからだ。ただただストレートな気持ちだけで話している。
私も椅子から立ち上がって、回るボンちゃんについて店を出た。
「来週はスパイダーズカフェで話そうよ、ポーラと恋バナもしたいし」
「ジョ〜ダンじゃなーいわよーう! ◆の恋バナ!? それはあちしと◆の秘密話にするって云ったじゃないのよーう! 代わりに、あちしも伝説のオカマ王の話をしてあげるわっ、それがオカマ道!」
がっはっはと笑うボンちゃんと通りを歩き、港にあるそれぞれの船に乗り込んだ。
「オカマの友情は距離なんて関係ナッシング! いいわねい、◆!」
先に出港したスワンダ号から、ボンちゃんがポーズを決めて声を上げる。
「了解よ、ボンちゃん! またねー!!」
アン・ドゥ・オラァ! と、掛け声が聞こえ、スワンダ号は小さくなって行った。
「ふふっ……」
来週はどんな話をしようと、今から考えてしまう。そして、ボンちゃんはどんな言葉をくれるだろうか。
一つ一つの言葉は私の糧になってるんだよ、と今度伝えようかな――だけどきっと、なーに云ってんのよーう! なんて云われてしまうだろう。
そんな、いつだって心から笑い合えるボンちゃんとの友情の為にも、私は笑顔を忘れないと心に決めて帆を張ったのだった。
END.
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