いつものコト(ミホーク)
「ミホーク、眠らないでよ」
 ◆はフゥと溜め息を吐いた。
 ミホークのこめかみに差し込んだ手の先で、ギッと髪を引っ張る。
「おい……痛いぞ」
 片目を開けて、カクカク髭オヤジが文句を云う。
「“鷹の目”の男に髭剃りミスの傷つけてやりましょーか」
「それは困る……おれに憧れる剣士達にショックを与えかねん」
 顎に絆創膏なんて貼って出て行けんからな、とミホークは顎髭をボリボリとかく。
 ◆はクスクス笑いながら、剃刀を持ち直した。
 彼の髭を整えてやる事が◆の朝の日課なのだが、最近難しい本を読み耽っていて寝不足気味のこの世界最強の剣士。作業の途中で居眠りされると困る。
「読書に熱心なのはいいんだけどね。今眠るのはやめて」
「クク……最近、夜の相手をしておらん事への当てつけか? そう怒るな、◆」
 ◆はカァッと頬を赤く染めた。
「違、違う! もう! この自慢の髭、全部剃り落としてやるッ!」
 ◆はそう喚くが、ミホークはそんな◆の様子など気にも留めないかのように大きな欠伸をする。
 こんなに気を緩めていても、この男が居眠りで船を漕ぐ事はまず無いだろう。人が持つ剃刀で傷付く事も無いのだろうけど、それでもこっちが不安になって作業が進まないのだ。
「……んもう、この角度も難しい」
 ミホークはモミアゲも眉毛も髭も、全てがカックンカックンになっている。
「んー……」
 ◆は眉間に皺を寄せながら腰を屈めて、椅子に座っているミホークと顔を同じ高さに合わせた。
「本当に髭が無かったら41歳には見えないね。綺麗なお顔だこと」
「フフ、何も出ないぞ……いや」
 ふいに、目の前のミホークが不敵に笑い、◆の後頭部をガシッと掴む。
「な、ちょっ……!」
 気付くと、金色の瞳に射抜かれた感覚と共に、その端正カクカク髭オヤジにキスされていた。
 チュッと音を立てて唇が離れると、ミホークはニヤリと笑う。
「……褒めて貰った礼だ」
 その笑顔は何かを企んでいるようにも見える。
「ッ、ミホークのあほ! 髭に悪戯してやる……ッ!」
 しかし、◆はもう胸がバクバクな上に顔は熱くなっていて、とにかく今は目の前の作業に集中する事しか出来なかった。



 END.





(終わったか? では行くか)
(ちょ、なんでベッドに向かうの!?)
(何を云う。いつもの事だろう)





 100724

- 6 -




←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -