Morning glow(クロコダイル)
 明け方の空が好きで、小さな頃から時間になると窓から見たり、あるいはベッドから抜けだして、外で澄んだ空気を吸いながら見上げていたものだ。
 クロコダイルと眠る仲になってからは、それもなかなか叶わなくなってしまったが、時折、クロコダイルは七武海の仕事なんかで朝になっても帰らない事がある。そんな時には外へ出て、起き始める空を存分に眺めに行くのが常だった。
 今朝も広いベッドで目を覚ますと、ぼんやりしながらカーディガンを羽織る。一人の目覚めはあまり慣れないけれど、そういう時に見る朝焼けは孤独を忘れさせてくれた。
「……きれい」
 外に出ると、すぐ傍に高台がある。そこから真っ赤な空を見上げた。東の空は赤く、西の空は澄んだ青で、そのグラデーションに心が震える。
 しばらく、ひんやりとした空気に浸っていたが、突然後ろから抱き締められてビクリと肩が上がった。
「っ、びっくりした……おかえりなさい」
 誰だかなんて振り返らずとも分かる。
「ベッドに居ねェと思ったら、案の定ここか」
 クロコダイルの温もりを感じて無意識にホッと息を吐く。回された右腕にそっと手を添えると、◆は微笑んだ。
「お昼過ぎまで帰らないって云ってなかった?」
「あァ……予定より早く片付いたからな」
「そう、良かった」
 その“片付いた”と云うのが、どんな内容なのか少し引っかかりはしたが、◆は何も云わなかった。それが“書類”なのか、はたまた“そうではない物”なのかは知らない。それはどうでもいい事だ。
「冷えてんじゃねェか。そろそろ部屋に戻るぞ」
「えー?」
 気付けば朝焼けはとうに消えていて、今はもう眩しい朝の光が二人を包んでいた。
「おれは眠ィんだ。お前もバカみてェに早起きなんざするんじゃねェ」
 クロコダイルはそう云うと、◆を肩に担ぎ上げる。その肩に頬杖をつきながら、◆は、むーと抗議の声を上げた。
「だって……クロコダイルが居ないから、起きちゃうんだもん」
「おれの所為にすんな」
 理由になってねェ、と鼻で笑うクロコダイルのほつれた髪に、◆はそっと触れる。
「本当の事だもの。こんな早くに目が覚めるのはいつも、クロコダイルが居ない朝だから」
 一緒に居る時は、クロコダイルが起こしてくれるか、クロコダイルが寝坊して◆が起こすかだからだ。
「…………」
 クロコダイルは無言のままだったが、ドアの前まで来ると、◆を下ろしてクシャリと頭を撫でた。
「おれが何故、早く帰って来たか分かるか、◆」
「仕事が早く終わったからでしょ?」
 そう云ってたじゃない、と云うとクロコダイルは、少し馬鹿にした態度で笑う。
「分かってねェな……おれァ、お前の居るベッドで寝てェから、早く片付けて来たんだぜ?」
 ◆は云われた言葉に、目を何度か瞬かせたが、すぐにその口元にふわりと微笑みを浮かべ、目の前の彼に抱き付いた。
「じゃあ、クロコダイルも寂しかったって事?」
 からかい気味にそう云えば、ギュウッと抱き締められる。
「……そう云うこった」
 くぐもった低い声と温もりは◆の心を充たしていき、目を閉じれば二人の拍動が揃い絡み合い、どこからかトロンとした眠気に包まれる。
「……寝る?」
「あァ」
 今日の始まりに、二人は安堵と云う名の眠りについた。



 END.




 100711

- 5 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -