鰐遊び(ミホーク)
「おい」
 クロコダイルは一つの部屋を覗く。
 ここは聖地・マリージョア。聖地の真ん中に聳え立つ、世界政府の屋敷のとある部屋。
「おい」
 もう一度、クロコダイルは言葉を放つ。声をかけられた者が、うるさそうに顔を上げた。
「何用だ」
「◆、いや――このくらいの背で栗色の髪の娘を見なかったか」
「見ていない」
 一言放つと、鷹の目をした男は手元の本に集中を戻す。
 クロコダイルは眉間の皺をより深くした。
「それらしい奴も見てねェか」
「そうだと云っている。今日おれ以外の人間に逢ったのは、ぬしが初めてだ」
「……邪魔したな」
 クロコダイルはチッと舌打ちをし、部屋のドアを少し乱暴に閉めた。
 彼が捜している娘とは、名を◆と言う。クロコダイルの絶大な愛を受けている、バロックワークス結社当初から彼の隣に居続ける不思議な娘だった。
「七武海の一角が、小娘一人に右往左往……笑えるものだ」
「もう行っちゃった? 私のワニさん」
 部屋の隅から出てきたのは、いたずらっぽく笑った栗色の髪をした少女であった。少女と言っても年は17。童顔と身長のせいで、やや幼く見える。
「ああ、余程焦っていたと見える」
「マリージョア中を探す気かしら」
「その内、島一斉放送を流すかもしれん」
 ニヤ、と笑うと、ミホークは組んでいる足の膝をトントンと叩く。それを見た◆がニコリと頷き、その上に腰掛けた。
「◆を匿っていたのを知ったら、鰐はどんな顔を見せるであろう」
「この屋敷が砂漠に変わっちゃうかもね」
 二人でクツクツと笑う。
 窓の外、一階の庭園で黒いワニがうろうろしている。
「あんな花畑に……クロコダイル可哀想」
「遊ばせておけ。◆も鰐の相手に飽きていたところであろう」
「ミホークも、読書に飽きていたところであろう?」
 そう返せば、ミホークは心底面白そうに口角を上げた。くしゃりと後頭部を掴まれて唇が近付いてくる。
 ミホークが◆に口付けたままソファに横たえる頃、鰐は庭園の池を覗き込んでいた。
「なァ、おれの女知らねェか?」
 水の中の鯉は、ぷくぷくと気泡を吐くだけであった。



 END.


 091125

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