ヨソウガイ(ドレーク)
「ドレーク船長、いつも思ってたんですけど」
「うん?」
 昼下がりの船長室。
 昼食後は、どうもみんな構ってくれなくなるから、それならばとここへ来た。案の定、我が海賊団一の真面目男は机に向かい、航海日誌にびっしりと航海の経過を書き綴っていた。
 今もペンは動いているし、机の横に勝手に椅子を持ってきて座っている私の事はまるで気に留めていない。
「その格好、暑くないんですか?」
「さあな……運良く夏島はまだ行った事が無い」
 ペンは動き続ける。
「ノースブルー出身って云っても、その黒光りの格好は暑苦しすぎますよ」
「黒光りと云うのは嫌だな……」
 頬杖をついて船長の顔を見つめても、目は日誌のまま。
「なんかモフモフしてるとこあるし! あと、そのマスクと帽子が余計窮屈そうです――よくそんなのして戦えますね。その洒落たブーツって通気性ゼロでしょう? でも似合うのはドレーク船長くらいですよね」
「それは褒めているのか?」
 真顔で淡々とその作業を進めていた船長の口元が、ふと緩んだ。ドキッとして凄く嬉しくなる。その微笑みは犯罪ですって。
「あ……あと、そんなピッチリモフモフなのに、何故上半身は剥き出しなんです? お腹冷えません?」
「フフ、そんなにヤワに出来ていない」
 口元に騎士の頬笑みを湛えたまま、ペン先にインクを浸す。スラスラと書く字はとても綺麗だ。
「あと、船長の……その、オレンジの髪が凄く好きです」
「……」
 ふと、ペンが止まる。
「オレンジと黒の対比が似合い過ぎです。すっごく格好良いです」
 ふふっと笑って、私はその髪に触れる。
「なんか色々格好良すぎるドレーク船長が好きです」
 ドレーク船長の格好を咎めるつもりが、いつの間にかベタ褒めしているなんて可笑しい話だ。更に、その話に顔をほのかに染めている船長が居るなんて…?
「どうしたんですか、船長……?」
 すると、ドレーク船長はコロンとペンを置くと、航海日誌をパタムと閉じた。
「◆、」
「はい……?」
「お手上げだ」
「?」
 ずっと作業に集中していて私をあしらっていた船長が、やっとこっちを向いてくれる!と期待する。
 船長は、髪を触っていた私の手を徐に握った。
「おれも◆が可愛いと思うし、そんな◆が好きだ」
 困ったようにそう微笑んで、クシャッと私の頭を撫でるドレーク船長の表情は、いつの時よりも甘くてやさしくて柔らかい。
 って。
「え? えっ……え、あ、ええええええ!!!??」
「どうした、◆」
 もはや頭の中はパニック状態。え、何故こんな事になっているの?
「え、えええ……好き、て……!」
「ん? 何だ、そう云う意味の“好き”ではなかったのか?」
 眉を寄せて首を傾げるドレーク船長は、きっと天然だ。天然に違いない。
「いっ、イエ! わ、私もドレーク船長が大好きなんです、けど!」
 まさかこういう展開になるとは思わなかったから頭がついていかない。
「船長も、私が好きって……??」
「ああ、好きだ」
 フッと笑ったドレーク船長は、わたわたとしている私に近づき、混乱を静めるおまじないのように、一つキスをしてくれた。
「――!」
 子ども扱いの宥められ方は少々恥ずかしかったけれど、ドレーク船長が優しく頭を撫でて微笑んでくれるから、もう何でもいいと思った。
「……もう、船長カッコ良過ぎですよ……」
「お前も本当に可愛いな」
 傍から見れば気持ち悪いカップルのようだけれど、しょうがない。
 どんな格好をしていたって、ドレーク船長は格好良いのだから。



 END.




(全く――冷静を保とうと必死に作業していたと云うのに)
(船長がカッコイイからいけないんですよ)
(お前が可愛いからいけないんだ)
(なんだアイツら……!!))




 100618

- 8 -




←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -