ケーキに質問(キッドVD)
頭は甘いものが好きじゃないと思ったけれど、じゃあ何を作ろうと考えた挙げ句、やっぱりケーキしか浮かばなかった。我ながらお菓子のバリエーションが少ないが、島にはまだまだ着かないと云うし、参考にする本も持ってないから仕方ない。
「さあ頭、召し上がれ」
お茶を淹れるから食堂に来て欲しいと呼びつけられて、些か不機嫌な顔で現れたキッドだったが、コーヒーと共に出されたケーキに目をしばたかせた。
「やけに上等な茶菓子じゃねェか。今日は何かあんのか?」
上等と評価された事に◆は嬉しくなりながら、自分のコーヒーを啜る。
「やだな頭、今日はバレンタインデーでしょ。これは私が作ったんです」
「……◆が? 毒入ってんじゃねェだろうな」
キッドの言葉に一睨みすると、冗談だ、と鼻で笑われる。
「あァ成る程バレンタインな。どうりで、ソワソワと食堂の周りをうろついてる奴らが居る訳だ」
「え!? 待ってるの!? みんなの分は後で配ろうと思ってたけど……」
◆はガタンと立ち上がり、横に置いておいたクッキーの包みが入った袋を掴んだ。
「じゃ頭、後で感想聞かせて貰いますからね〜」
「待てよ」
ドアへ向かおうとした◆だったが、腕をグイッと引っ張られてキッドの隣の席へ戻されてしまう。
「何すんですか!」
「おれが食べ終わるまでここに居ろ」
キッドの顔をまじまじと見つめるが、ケーキにフォークを入れるとこだったので何故か慌ててかしこまる。
「……ほォ、確かに毒は無ェみてェだな」
「入ってないですって!」
「ん、ちゃんと美味ェよ」
突然云われた賛辞の言葉にびっくりして、◆は固まってしまった。
ぶっきらぼうだったが、お世辞を云う人ではないのは分かっているから、だらしなく頬が緩んでしまう。
「へへ、嬉しい」
「……だが」
「?」
「何でおれだけケーキなんだ?」
――ああ、一番痛いとこを突かれてしまった。だからクッキーは後で配ろうと思っていたのに!!
◆はキッドから目を逸らす。
「船長だからか?」
キッドはフォークを皿に置いて、◆を見つめてくるが、◆の頭にはキラーの言葉が浮かんでいた。
――チャンスがあれば云った方がいいぞ。いつまでもそのままで居ていいのか……?
◆は意を決して、キッドの深紅の目を真っ直ぐ見た。
「頭が好きだからです」
云ってしまった。
怖くなって顔が熱くなって、思わず下を向く。
「そうか」
「え、」
何て事無いような言葉に顔を上げると、キッドはケーキをまた崩し始めていて、訳が分からない。
「……頭?」
流されたのだろうか、と思ったが、ケーキを頬張っているキッドの横顔は、見た事が無いような上機嫌な表情で、心なしかほんのり赤くなっていた。
◆も何だか自然と微笑んでいて、キッドが食べ終えるまで互いに黙っていたが、そんな空間もとても心地良くなっていた。
END.
(勿体ぶるなー、キッドの頭)
(フッ、ホワイトデーは面白くなりそうだ)
(楽しんでるな、キラー……)
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