もったいない!(ドレーク)
「訳の分からん奴だな、お前は……」
 ドレーク船長は呆れた顔で云った。
「だって……どうしようもないんですもん」
 私は赤く充血した目を擦って答える。
「眠いのなら眠ればいいだろう。徹夜じみた事など海軍時代でもあるまいに」
 食堂のテーブルに腰掛けた船長が、持っていた帽子を傍らに置いた。椅子に座っていた私はそのテーブルに突っ伏す。
 就寝時間はとうに過ぎ、時計はもうすぐ四時を指す頃。コーヒー片手に必死に起きていた私を、食堂に水を飲みに来たドレーク船長が発見。
 眠そうなのに頑張る私を見て、船長は冒頭の通り。
「何故そんなに明日を嫌がる」
「……別に明日が嫌なわけじゃないんです。ただ何となく……すぐ寝てしまうのが勿体無く感じて」
 寝てしまえば、起きたらモチロン朝だ。刺激的な海賊の一日が始まるとは云え、そんな一日をすんなり終わらせるのが惜しくて、眠気に素直に従えない。
 ふあ〜と欠伸をして、既に冷めたコーヒーを啜る。不味い。
「――お前は毎晩こうしているのか?」
 ハァと息を吐いた船長は、私のカップを奪ってコーヒーを飲み干してしまった。
「あはは、さすがに早朝当直の時は寝ますよ。大体は起きてますが」
 空になったカップを持ってキッチンへ行き、ささっと洗う。テーブルに戻ってくれば、ドレーク船長は先程の体勢で俯いていた。
「……寝ちゃったんですか?」
 顔を覗き込もうとすると、私の声にゆっくりと顔を上げた。その眠そうな顔が可愛く思えてクスッと笑えば、船長はバツが悪そうに咳払いしながら帽子を取った。
「考え事をしていただけだ」
「ふふ、じゃあそろそろ部屋に戻りますか――行きましょ、船長」
「……ああ」
 食堂の灯りを消し、静かな廊下を二人で歩く。この時間に起きているのは当直の者だけだろう。
 そして無言のまま船長室に着いた。
「ではドレーク船長、おやすみなさい」
 そう云って、くるりと背を向けた。
「――。……船長?」
 腕が何かに引っ張られた気がして振り返れば、帽子を深く被ったドレーク船長が私の腕を掴んでいた。もう片方の手に持ったランプの火がゆらゆら揺れる。
「……今度からお前が夜更かしをする時は、おれも共にするとしよう」
「え?」
 突然の言葉に首を傾げれば、船長が顔を上げた。力強い瞳に息を飲む。
「◆が“眠るのが勿体無い”と云うのであれば、おれも◆が起きているのに“会わないのは勿体無い”と思ったのだ」
「……?」
 ドレーク船長は微笑んだ。
「なるべく長く◆と時間を共にしたいと云う事だ。だから呼んでくれ」
 な、と頭をクシャクシャと撫でられて見つめられたら頷くしかないだろう。
 それを見て船長は満足そうに笑うと、掴んでいた私の腕を持ち上げ、口元を私の掌に押し付けた。
「――ッ!? せせせ船長ッ!!?」
「おやすみ、◆……早く寝るんだぞ」
「……」
 静かに閉じられたドアの前で朝まで固まっていた私を、ドレーク船長が発見するまであと二時間。



 END.




(あれ、昼の当直◆じゃなかったか?)
(アイツ今寝てるよ……完徹したらしい)
(は? 何でまた)
(さァ? 船長も眠そうだし……はッ!)
(もしかして!?)
 勘違いな噂が広まる五秒前。



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