ふたりの距離(キラー)
「ねえ、キラー」
「なんだ」
「海は広いよね」
「そうだな」
私とキラーのいつもの会話。
「ねえ、キラー」
「なんだ」
私が呼べば必ず応えてくれる。
「空も広いよね」
「ああ、広いな」
単調なやり取りだけど、低音で響くキラーの声が好き。
そういえば以前、キッドに「キラーを探す時ァ、◆を探せばいい」って笑われた。それは、キッドのところにキラーが居なければ、必ずと云っていいほど私の傍に居るからだ。
けれど、別に私達はソウイウ関係でもない。今だって、つかず離れずの位置に居る。
私はブリッジデッキのフェンスに腰掛けていて、足下の甲板ではキラーが樽に寄りかかって、多分ウトウトしてるのだろう。
静かな昼下がり。
暫く足をブラブラして、またキラーに話しかける。
「……ねえ、キラー」
「なんだ」
変わらぬ返事に、クスッと笑ってしまった。
「私はこうしてキラーと居る時、とっても心地良いけど……キラーもそう?」
「……ああ」
私は目を細めて空を見上げた。
「私はね、ずっとこうしてキラーの傍に居たいの」
青く澄んだ空にはカモメが飛んでる。島が近い証拠だ。数分後には、暇を持て余して部屋に籠もっている、我らが船長のご機嫌も直るだろう。
「――でもね、今よりも、もっと近くに居たいの」
単調なやり取りも好き。
だけど。
「キラーに触れてみたいの」
この距離感も好き。
だけど。
「誰も知らない、私だけのキラーの声が聞きたいの」
そう思ってしまったから。
いつも云う筈の単調なセリフは止めた。
「ねえ、キラー……キラーも、そう?」
「…………」
長い沈黙。
私は空を見つめたまま。ふと、もしかしたらキラーは会話の途中で寝てしまったのではとも思えた。
「――◆」
突然名前を呼ばれて、ハッと空から足下へと視線を移す。キラーはこちらを見上げて立っていた。
「おれも、◆と同じだ」
「――!」
見えない視線で真っ直ぐ射抜かれた気がして、私は耐えられなくなってデッキを飛び降りた。
「……◆、キッドのような真似はよせ」
危ないだろう、と続けようとしたキラーに抱き付く。
「私、キラーが好き!」
そう告げれば、キラーはやさしく抱きしめ返してくれた。
「ああ、おれもだ」
嬉しくなって、えへへと笑う。
「違いない?」
「違いない」
ふと、キラーが笑った気がして顔を上げると、カチャ、とマスクを外す音が聞こえた。
「……好きだ、◆」
重なった唇が、二人の距離が無くなった事を教えてくれた。
END.
100115
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