雨=いい思い出(ロー)
 私は雨音が嫌い。
 しとしと、と云うあの雨音。降るならザーザーと甲板に穴を開ける勢いで降ってくれればまだマシなのに。雨の日は静かで本は読みやすくなるけれど、文と文の間に入る雨音が気に障る。
 重たい空気の船室では、布団に潜ってしまうのが一番だ。
「だからって何で毎度おれの部屋に来る」
「キャプテンが一番静かそうだから」
「てめェの部屋で寝りゃいいだろ」
「雨の日は一人じゃ眠れないの」
 眠る時さえ聞こえる雨音が私の睡魔を寄せ付けない。でも、人が居る部屋で眠れば安心して睡魔と添い寝出来るのだ。
「雨の日に毎回これじゃ世話ねェな」
「戦闘の時はちゃんと戦うよ」
「おれが迷惑だ」
 そう云いながらも、私がキャプテンのベッドに潜り込むのを止めないキャプテンはやさしい。少し離れたソファで難しい医学書のページを捲る。
「ね、キャプテン」
「あ?」
「キャプテンは雨好き?」
「あァ……誰かさんが静かになるからな、比較的気分がいい」
「えー、何それ」
 少し口角を上げて、私と目を合わせたキャプテンが色っぽく見えてドキッとする。
「そんなに雨が嫌いなら、雨の日にいい思い出を作ればいい」
「いい思い出?」
 布団はキャプテンの匂いがするけど嫌じゃない。そんな事を思っていると、キャプテンがいつの間にかベッドに上がって来ていた。
「あれ、キャプテンも寝るの?」
「――いや」
 私が被っているシーツを捲り上げて、ソファの方に放る。
「さむ!」
「すぐに温まる」
 そうして私の上に跨って、耳の下に手を入れて撫でられた。ゾクッとする。
「何してるんですか?」
「クク……てんで無防備な女だな、◆」
「キャプテ――」
「ローだ」
「ん……?」
 左手で私の右耳を弄り、右手で私の左太ももを触りだしたキャプテンの顔がどんどん近付いてきて、唇が触れるか触れないかのところで止まった。
「ローだ、云ってみろ」
 私は目を瞬かせつつも、素直にその名を口にする。
「ロー」
「そうだ。これからはずっとそう呼べ」
「へっ、あ!」
 気付くとキャプテンの右手は、私の服の中に侵入してきていて、下着ごと胸を揉まれていた。
「ちょ、キャプテン! 何す――」
「ローだっつってんだろ」
「ろ、ロー……何すんですか!」
「セックス」
 ニヤリを笑ったキャプテンに私の唇は奪われる。いや、呼吸ごと奪われていた。
 それはそれは激しくて熱くて艶めかしいもので、でも何故だかやさしくて甘くて、キャプテンみたいだなと頭の片隅で思った。
「っあ……っ!」
「予想通りのイイ顔だ」
 なんかそのまま体を舐め回される私――ちょ、ちょっと待て! いつからこんな事に!?
 私はただ雨音が嫌で寝ようとして、でも一人じゃ嫌だからキャプテンの部屋で寝ようとベッドを拝借しに来ただけなのに!
 そう抗議の声を上げれば、私の胸元から顔を上げてキャプテンはニヤニヤ笑いながら、私の耳元に唇を寄せて、思い切り低い声で云った。
「知らなかったか? おれが……ずっと前からお前に惚れてる事を」
 ポカンと固まった顔のまま見上げれば、酷くやさしい声で◆、と呼ばれて小さなキスをくれた。
「好きなんだよ」
 さらさらと流れる涙をそのままに、私はキャプテンをぎゅっと抱き締めていた。
 私もですキャプテンと鼻声で答えれば、もう一度そう呼んだら啼かすと脅された。
 じゃあ、キャプテン。と悪戯に呼んでみれば――もう、しとしと降る雨音なんて気にならなくなっていた。



 END.




(◆だけだよな、ロー船長の気持ちに気付かなかったの)
(いつ雨が降るか、毎日ベポに訊いてたもんなァ)
(航海士も楽じゃないよ)
 みんな知ってた船長の想い。



 091117

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