雨降る舳先で(ドレーク)
 もうじき冬島だろう――と、ドレーク船長が云っていた。
 この寒さは雨のせいだけではないはずで、ふとそんな事を思い出した。
 今まさに雨粒に打たれている真っ赤な傘は、先に寄った島でドレーク船長が買ってくれたもの。
 雨に打たれながら船首で海を眺めている私に、
「これを差せ、風邪をひく」
 と、寄越してくれた。だから、この傘を差せる雨の日は好きだ。
「さっむ」
 甲板には誰もおらず、皆、食堂や自室で思い思いに過ごしているんだろう。私は、ちっぽけな雨粒が一瞬にして、大いなる海に変わっていく様子に見とれていた。
「◆」
 不意に名前を呼ばれて振り向くと、傘も差さずにこちらへ来るドレーク船長が居た。
「船長? 何してるんですか!」
 自分で風邪がどうのとか云ったくせに! と真っ赤な傘に入れてあげれば、私の背丈では低いのか、ドレーク船長は少し腰を屈めて「ありがとう」と微笑んだ。そして、ごく自然に私の持つ傘を取って差してくれる。
 その笑顔にも行動にも、胸がドキドキと鳴ってしまう。こんなに肩を寄せ合っているのなら余計に。
「……船長は何でこんなところに? 本を読まれていたのでは?」
「まあな。だが、おれも海を見たくなってな」
 海を見つめるドレーク船長の吐く息が白い。
「しかし寒いですね。ほんとにもうすぐ冬島みたいで」
 そう云って体を擦れば、ドレーク船長がサッと自分のマントを外して私にかけてくれた。
「――わ、」
「少し雨に濡れてしまっているが、羽織っているといい」
「い、いいですよ、船長! 自分の上着取って来ますんで!」
 慌ててマントを返そうとすれば、自分の手に黒い皮手袋をはめた大きな手が重ねられ、やんわりと止められる。
「こうして傘を差していれば、見張り台からおれたちは見えないだろうか」
「え……?」
 突然の問いに首を傾げると、船長が少し腰を落とす。そしてそのまま、私の目の前の海がドレーク船長で遮られた。
「――好きだ」
「…………へっ」
 確かに唇に船長のそれが触れたのに、気付いた時には船長は甲板を歩き始めていた。
「ド、レーク船長……っ!?」
 いつの間に渡されたのか赤い傘を握り締めて、私は思わず呼び止める。振り返ったドレーク船長は雨に濡れ始めていたけれど、気にせずに柔らかく笑った。
「返事はマントを返しに来る時でいい」
 濡れたままでいいからな、と少し意地悪く笑うと、踵を返して船室に消えていった。
「へんじ……」
 好きだ、の返事って事? と、船長の声を思い出すと、ブワッと顔が熱くなるのを感じる。この傘くらい真っ赤じゃないだろうか。
「ずるい船長……」
 ポツリと呟いて、マントを握った。



 END.






(船長、カッコ良く甲板から去ったけどよ)
(あァ、さっき階段でこけてたな)
(声かけたら、真っ赤な顔で、すげェ汗かいて酷く動揺してたぞ)
(ドレーク船長、照れ屋なのにあそこまで頑張ったのは偉い!)


 091117

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