何も無いけれど(ローBD)
「はあ……どうしよう……」
 ◆は部屋で溜め息を吐いていた。
 外の甲板では、船長“トラファルガー・ロー”の誕生日パーティーが、朝から行われていて、とても賑やかである。ただ、時計を見ても、ローが起きる時間にはまだ早かったので、船長不在でクルーのみで盛り上がっているらしかった。
「……はァ」
 もう一度、◆は溜め息を吐く。
 実は、まだローへのプレゼントが決まっていないのだ。前の島で買おうと思ったものの、悩んで結局出航に間に合わず、船の上で用意出来るものなんて限られている。
「ケーキはもう出来てるだろうし……ああもう何も浮かばないや……!」
 頭をガシガシと掻き回していると、外がやけに騒がしくなった。多分、ローが起きて来たのだろう。
 そうなれば、自分も甲板へ向かわないとローの機嫌を損ねてしまう。
「……正直に云おう」
 そして、次の島で何か目ぼしいものを手に入れようと、◆は重たい足を引きずり、部屋を出た。
「あっ、◆! おはよー! キャプテン起きてきたよ!」
 ベポがブンブンと手を振り、◆に近寄ると、コソッと耳打ちする。
「プレゼントあげるのは夜だから、それまでワイワイやろうってみんなと話してたんだ」
「オッケイ。で、キャプテンは何処に居るの?」
 ベポに教えられて、◆は後甲板へ向かった。皆、前甲板に集まっているので、そこにはローの姿しか無い。
「キャプテン、おはようございます」
 樽の上に座り、潮風に吹かれていたローが眠そうな顔を上げる。
「……気持ち悪ィ口きくんじゃねェよ」
「気持ち悪いは云い過ぎでしょ、ロー。お誕生日だから船長らしく扱ってあげようと思ったのに」
 肩をすくめてそう云えば、ローはバカにしたように笑う。
「――でね、ちょっと相談があるんだけど」
 躊躇いがちにローの顔を覗き込むと、あ? と◆を見る。
「誕生日プレゼント、まだ決まってなくて。今日はあげられないから、次の島でいいかなって」
 どうでしょうか……と、小さくなりながらローの返事を待った。
「――アホかお前」
「え……わっ!」
 すると、ローは傍に立っていた◆の手を引くと、器用に自分の膝の上に座らせる。
「何何何! この状況……!」
 アワアワと居心地悪そうに動いてると、ローは少し不機嫌そうな目で◆を見上げた。
「静かにしてろ」
 低い声でそう睨まれると硬直せざるを得ず、◆はローの膝の上で大人しくする事にした。
「プレゼントなんてどうでもいいんだよ」
 ローがボソッと云うので、◆は首を傾げる。
「……じゃあどうす――」
「まだお前の口から聞いてねェ、◆」
 遮って云われた言葉に、◆はアッと声を上げた。
 それが何だか微笑ましくてニヤニヤと笑うと、ローにまた睨まれてしまったので、◆はコホンと咳払いをして目の前のローに手を回し、ぎゅうと抱き締めた。
「……お誕生日おめでとう、ロー」
 そう囁けば、ローがフッと笑ったのが分かって嬉しくなる。
「今日一日、おれの傍に居ろ。夜まで、ずっとだ」
 プレゼントはそれでいい――と、◆を抱きしめ返したローが熱を帯びた声で云うものだから、◆の心臓が暴れ始めてしまうが、この人の傍に居られるのなら何でもしてあげようと思ってしまう自分も自分だな、と呆れて笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「ううん、なんでもない……ふふっ、分かった。傍に居る」
 笑いながらゆっくり離れると、訝しげに自分を見上げるローが帽子を取ったので、またそっと近付く。
「ね、ロー……大好き」
 ここに温もりが存在する事は、幾つもの奇跡の集まりであって、それが今日と云う日を祝うものであり、その場に、そしてその温もりに触れられている事も、とんでもない奇跡なのだろうと思う。
「生まれてきてくれてありがと」
 唇が重なる前に、囁いた言葉でローは口角を上げた。
「どういたしまして……」
 その直後、ベポに見つかって“プレゼントはまだだって云ったのにー!”と怒られてしまったけれど、その後ろで楽しそうに笑っていたローを見れたから、◆は今日一日、精一杯の感謝を込めて傍に居ようと決めたのだった。



 END.




(分かってんのか、お前……夜のお供もプレゼントの内だぞ?)
(ふふ、そのつもりだけど)
(――! へェ、そいつは楽しみだ)
(え、なんか緊張してきた……)


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