明日からは(キラー)
 悪い夢を見た。
「キラー……起きてる……?」
 ゆっくりと部屋に入って窺うようにベッドに近付けば、暗がりの中に枕元のマスクを見つける。やっぱり寝ている時は外すらしい。
 暗闇で顔は見えないけど、とりあえず手探りでベッドに入ってみて、ゴソゴソと温もりの方へ近付くと、トンッと何かに当たった。手を伸ばして当たる肌に触れると、きゅっと手を温もりに包まれる。
「夜這いにしては遅過ぎるぞ……◆」
 眠たそうな低い声がゆっくりと落ちてくる。
「悪い夢を見たの」
「ほう……キッドがドレッドヘアにでもしたか……?」
 半分意識がまどろむキラーの冗談と声が心地良くて、クスリと笑ってしまった。握られた手に口づけを感じて、くすぐったい。
「覚えてないんだけどね、嫌な夢なの……怖かった……」
 そっと胸に顔を押し付けると、私の手を握ったままのキラーの手が頬に触れる。
「泣いたんだな」
「うん、そうみたい」
 すると、ゴソゴソと衣擦れの音がして、息遣いをすぐ傍に感じた。
「だから、いつもおれと寝ればいいと云っている……悪い夢を見たとしても、こうしてお前をすぐに抱きしめてやれる」
 そして云われた通りに、ぎゅうと抱き締められた。ああ、キラーは寝る時は上裸かあ――なんて直に肌に包まれて、ぼんやり思う。
「それに、こうしてお前に……口付け出来る」
 心地良いキスはキラーらしくて、悪夢の恐怖なんて何処かへ行ってしまった気がした。
「ん……ふふ。だって、キラーと寝たら逆に睡眠不足になりそうなんだもの」
 クスクスと笑いながら、キラーの背中に回す手に触れた金髪を撫でる。
「あとね、一緒に寝るって云う事は、起きる時にキラーが居るって事でしょう? 私、まだキラーの素顔を見た事無いから……見ちゃったら、好きになっちゃいそうだからダメ」
 そう云うと、キラーが肩をすくめるのが分かった。
「……何だ、◆。まだおれに惚れていなかったのか」
 キラーの声は無表情ではあるけれど、冗談めかして云ってるのは分かる。
「うん、残念ながらね」
 嘘だけど、と心の中で呟けば、もう一度キスをされた。
「それなら……お前が惚れるよう、朝まで放さずにいなければな」
「ふふっ……」
 悪い夢から逃げてきたのに、何だか違う獣に捕まってしまったような気がする。けれど、実は自分で望んだ事だったりするから可笑しくなって、小さなキスをキラーの頬に返した。
「じゃあ、心して眠らないと……ね」
「フフ……そうだな……」
 明日からはきっと、こうして一緒に眠るのだろう。そうしたらもう悪い夢なんか見ない気がして、早くこうしておけば良かったかな、と寝息をたて始めたキラーの胸に額を寄せて、ゆっくりと目を閉じた。



 END.




 100816

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