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「ダテに嵐ン中で襲われてねェんだぜ? もっと周到に事を運ばねェと上手くはいかねェもんだ!」
 額に汗を滲ませながらも、クロコダイルは余裕の笑みを見せる。
 スキュアはそれを苛立たしげに睨みつけると、クロコダイルの後方に控えていたクルーに微かな目配せをした。
 クルーがいそいそと動き出した事にナセは気付き、男達とクロコダイルを交互に見やるが、クロコダイルはスキュアの剣を再び受けており、それに気付く余裕は無いようだ。
(何をする気なの……?)
 目配せを受けたクルー共はクロコダイルに気付かれぬよう、仲間達の影に隠れながら、何かをゴロゴロと運んできた。
 それは五つのタル――ナセはピンときて息を飲む。
(もしかして……あれって海水が入ってるんじゃ――!?)
 大タルが数個。その中に海水が入っているとして、クロコダイルに浴びさせる気なのだろうか。
 能力者は水に浸かる事が無ければ動けなくなる事は無いが、クロコダイルの弱点は“水”だ。しかも海水を一度に沢山浴びせられれば、いくらクロコダイルでも疲弊する。
 勿論、海楼石入りの武器を持っているのだから彼の実体をとらえる事は可能だが、彼らは飛び道具を使ってはこなかった。海楼石が施されたのは剣のみらしく、クロコダイルに剣を振るう事でしか攻撃が出来ないのだろう。
 カンが働き、ふと視線をずらせば、ナセと同じように少し離れた場所に狙撃手であろうクルーが数名立っている。四方八方に位置する彼らに、“海水をかけてスキを狙い、銃で蜂の巣にする”と云う作戦が窺えた。
(“かいろうせき”の武器を持っている意味が無い気がするけど……この作戦のカモフラージュか何か? それか奥の手って事かな)
 海楼石入りの武器を手配したのはドフラミンゴで、海水で蜂の巣にする作戦を立てたのはスキュア海賊団だった。しかしそれを知らないナセは首を傾げる。
 しかし、それはそれ。頭を使って姑息な手を使ってでもしなければ、余程の事が無い限り、“七武海の一角”を落とす事など出来ない――それはナセも理解していた。だからこそ。
「そんな事させない……!」
 予想通り、クルー達は二人掛かりでタルを持ち上げ始めた。クロコダイルの背後にまわり、もう一人がタルを割る為に、サーベルを振り上げる。
(控えを入れて撃つべきは15人!)
 ナセは冷静に銃を構える。
 タルは数個あり、持っているクルーは二人ずつ。それを壊す為のクルーもそれぞれ居たのだが、ほぼ一瞬の内に、全て正確に撃ち落とした。
「うあァ!?」
「なっ……!?」
 撃たれたクルーも周囲のクルーも、そしてスキュアも目を剥く。
 見えぬところからの思わぬ攻撃、まさかの作戦阻止に驚愕しているようだった。
「何だ……!?」
 クロコダイルはスキュア達の様子に訝しげに周りを見回し、自分の後ろにバタバタと海賊達が倒れている事に気付いた。そして、割られずに転がっている五つのタルに目を留める。
「そこだ! 頭、その岩の影に邪魔者が!!」
 作戦の為に、銃を構えていた狙撃手がナセを認め、指をさす。
「あ、いけない……!」
 物陰から身を乗り出していたナセは、そこから離れようと後ずさった。
「“あっち”の仲間だな……!」
 狙撃手達は、クロコダイルの居る位置より離れているものの、ナセに向けて銃を構えた。
「――あッ!!」
 狙撃手の撃った弾は、ナセの銃を弾き飛ばし、肩をかすめていった。
 ナセは小さく悲鳴を上げ、反動で地面に転がった。得物は少し先へガタリと落ちる。

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