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「そうさ……嵐の中、アンタを斬った男だ。ルークはドフラミンゴにそそのかされ、アンタの乗った軍艦を襲ったのさ。“シケの中で刺しちまえばこっちのモンだ”と云われてな」
 確かに、スナスナの実の能力者であるクロコダイルは、あの状況でかなりの苦戦を強いられた。そして窮地にも陥ったのだ。
「……だが、アンタの強さは能力だけのもんじゃねェ。嵐の中だろうがアンタがそう簡単にやられる奴じゃねェって事、ドフラミンゴは知っていた筈だ」
 七武海の一角を担う海賊はそう易々とやられない。弱点をつかれても、海に放り込まれない限り、それを上回ればいいだけの事。それは彼も――ドフラミンゴも能力者だからこそ、解りきっている事だった。
 男はざりざりと長めの剣を地に引きずりながら、静かな怒りを含めて続ける。
「だがな、ルークはその話を教唆だと気付きながらも受けた。あの男の配下ってのはそう云う事だ……逆らう事など出来ねェんだよ!」
 あの愉快な笑いと装いとは裏腹に、彼の持つ覇王色の覇気に気圧され、また恐怖し、糸で操られた人形のようになり下がるしかない同胞は少なくなかった。そして、ルークもまたその餌食になった――。
 ハナから敵う相手ではない……そう云いながらも「やってやる」と云ったルークの事を男は思い出す。マリージョアから帰還する軍艦を狙うのだと意気込んでいた。
 グッと柄を握る男の話をクロコダイルは意外と静かに聞いていた。素直に耳を傾けていたわけではない――彼が気にしているのは、この事件の引き金となったドフラミンゴの事だ。
「結果、ルークはお前に敗けた……そして再びドフラミンゴは、今度はルークの兄弟船だったおれ達――スキュア海賊団に、金と一緒に話を持ってきた。“兄貴分のルークの仇を取らねェか”と。おれ達は金は不要だと伝えたよ」
 海賊団の頭である彼――スキュアは肩をすくめた。
「自ら志願したんだ! 例え使い捨ての手駒でも、おれ達はルークを砂にしやがったクロコダイルを叩きのめそうってなァ……!!」
 息を巻くスキュアに反し、クロコダイルは「下らん」と薄ら笑いを浮かべる。
「なるほどな。おれを狙うのはお前らの仇討ちだが、それ以外は全て、あのクソ鳥野郎の差し金と云うわけだ」
 二年前に狂わされかけた計画――そして今もなお、自分の野望の邪魔をされている。
 怒りと云うよりも、もはや笑みしか浮かばない。
「可笑しな話だぜ。お前らの本当の仇は“ドンキホーテ・ドフラミンゴ”だろうが」
 クロコダイルの言葉に、スキュアも肩を揺らせて笑った。
「そうさ、おれ達が本当にブチのめしたいのはドフラミンゴだよ! だが、ルークはドフラミンゴへ絶対の忠誠を誓っていた。おれ達はヤツの配下じゃなかったが、兄弟の忠誠はおれ達の忠誠……逆らう訳にはいかねェ。いや、逆らえねェ……ハハハ! アイツは恐ろしい男だからなァ!!」
 スキュアは笑ってはいたが声は至って真面目だった。そして、その脳裏にはあの男の高笑いが浮かび、その恐怖を振り切るかのように剣を握り締めた。
「背水の陣ってヤツさ。おれ達に出来る事ァ、目の前にいるアンタを……アンタの野望をブチ壊す事だけなんだよ!」
 鈍い色の剣が光り、スキュアの怒気が迫った。
 鉤爪で剣をへし折ってやろうかとも思えたが、スキュアもなかなかの剣士らしく、鉤爪のカーブをするりと滑らせて距離を取った。ざりざりと特徴的な音が響く。
「チッ、イヤな音だぜ……!」
 クロコダイルは鉤爪の先を外し、“刃”を出した。
 リーチに差があるものの、敗ける気は全くしていない――こんな小物如きに、自らの野望が打ち砕けようか。

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