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(何故、ボスを……?)
 海賊が七武海を狙うと云うのは不思議な事ではない――が、彼らの動きに違和感を覚えたナセは、敵と対峙しつつも、クロコダイルの方も気にしておこうと決めた。
「野郎……そういう魂胆か……!!」
 クロコダイルは自分に向かってくる海賊達を見て、ドフラミンゴの事を思い出し、納得した。――全て、奴が仕組んだ事だと。
「コイツら全員ミイラにするとしても腹の虫は収まらねェな……」
 額に青筋を浮かべたクロコダイルは、目の前に迫ったサーベルを鉤爪で弾き、右腕を振り上げた。
「三日月形砂丘――バルハン――!!」
 腕が砂となり、三日月を形どって相手の水分を奪う技――しかし、あろう事か目の前の海賊達は、それを“剣”で受けたのだ。
「何、……!?」
 ロギア系の能力に、対抗出来る悪魔の実の能力を持たない者が使える方法は二つ――覇気か、海楼石か。
「その武器は“海楼石入り”か」
 敏感な能力者には感じ取れる“嫌なエネルギー”を発するサーベルに、クロコダイルは顔をしかめた。
「ご名答〜。これがありゃァ、アンタの能力は封じたも同然だよなァ」
 そう答えた男がニィ、と笑うと、同じように薄気味悪い笑みを浮かべた者達が得物を構える。
「なるほど、ミイラになりたくねェらしい」
 クロコダイルもそれに倣い、右腕ではなく鉤爪を構えた。そしてチラリとバロックワークスの動きを見る。
「余所見してると……“また”串刺しになるぜ!? クロコダイル!!」
 海楼石入りのサーベルが迫り、それを鉤爪で受け、思い切り弾く。
「“それ”は簡単には手に入らねェ筈だ。どう手配したのか訊きてェもんだ」
 四方八方から迫るサーベルを避け、弾き、倒し――悪魔の実の能力は、弱点をつかれると途端に戦いづらくなる事を昔から理解していたクロコダイルだったが、“以前”の出来事が教訓になっていない訳ではなかった。だから今、弱点を前にしても平然としていられるのかもしれない、と口許を歪めた。
「そんな事、頭のキレるアンタにならもう分かってる筈だろ?」
 海賊達の中から、一際鈍い色をした剣を下げた男が出てきた。身なりからしても彼が船長なのだろう。
「フン……フラミンゴ野郎の用意周到さは見習わねェとな」
 そう答えながら、クロコダイルは社員達の方に目をやる――社員を心配しているのではない。
 その目線の先には、銃で確実に敵を撃ち倒していくミス・ロビン――ナセの姿があった。
 ヒュ、と風を切る音が聞こえ、クロコダイルは素早く鉤爪を突き出す。
 鈍い音を立てた剣は長く、今も左腕に残る傷跡を作ったあの長剣を彷彿とさせた。
「サー・クロコダイル……! おれ達が何故アンタを狙うか分かるか……?」
 外輪を使って河を逆走し、バロックワークスの船を追いかけ、そこに偶然居た七武海もちょうどいいから倒そう――そんな狙いではない事は明らかである。
「クハハ……あの男に金でも積まれたか」
 長剣の持ち主である船長が、剣を交えたまま首を振る。
「いーや、そんな安い理由なんかでおれ達が“七武海”に手を出すかよ。――知ってたか? ルークはドフラミンゴの配下に居た海賊だって事を」
 ――長剣のルーク。
「何……!?」
 それはまさに、クロコダイルの左腕にその名の通りの剣を突き刺し、背中をぶった斬ってくれた張本人。一年前、大シケの海で軍艦を襲った、今は砂となり消えたルーキーの名だった。
 目を見開いたクロコダイルの様子に満足そうに頷いた男は、鉤爪を弾いてクロコダイルから離れる。

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