06
 負けちゃったけど楽しかった、と微笑むナセに何故か居心地を悪くしたクロコダイルは、誤魔化すように葉巻の灰を灰皿に落とした。
「それで、“云う事を一つ”って何?」
 少し短くなった葉巻をふかしながら、クロコダイルはソファにふんぞり返る。
「そうだな――」
 そう云って、クロコダイルは目の前のローテーブルに乗り出しているナセをチラリと見た。
 白くてきめ細やかな肌、細いけれど華奢ではなく健康的な肉付き、ほんのりと色付く頬や、くるくると動く黒い瞳。そして幼い顔立ちではあるが、大人の女性の魅力を何処となく隠すナセに、クロコダイルは無意識に唾を飲み込んでいた。
(小娘如きに、何考えてる……?)
 クロコダイルは首を振った。
「どうしたの?」
 しかし、やましい考えの上での条件付けであったのは間違いなかった。
「……いや……」
 目の前の小娘に自分の欲求を押し付けるのは簡単だし、自分に夢中にさせるのも容易い事だと、クロコダイルは分かっていた。自分に抱かれた者は必ず、自分しか見れなくなる、と。
 ――だが。
「そうだ、クロコダイルさんは楽しかった?」
 自問自答の世界に入っていたクロコダイルは、ナセの言葉に顔を上げる。
「カジノに行く前に云ってたでしょう? “楽しませて貰おう”って……私とのルーレットは楽しかった?」
 少し自信無さげにこちらを窺う仕草に、クロコダイルはフン、と笑い飛ばす。
「……あァ。楽しかったぜ」
「良かった!」
「!」
 クロコダイルはその笑顔に、胸が何故かざわつくのを感じて顔をしかめた。ナセと初めて逢った時に覚えた感覚に似ていて、余計ざわつきは鬱陶しくなる。
「……クソが」
「え?」
 顔をしかめたまま、クロコダイルは自分の隣のスペースを叩く。
「ここへ来い」
 立ち上がって、素直にクロコダイルの隣に座ってきたナセに、クロコダイルはゆっくりと近付いた。
「“おれの云う事を一つ聞く”っつーのは……」

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