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「クソミンゴ……!」
 少し薄暗くなった路地裏。そこに目を向ければ、並べられたタルの上でしゃがんでいるピンク色の鳥――ではなく、同じ七武海の一角・ドフラミンゴだった。
 何故よりによって今コイツが現れるのかと、クロコダイルは眉間の皺を深くさせる。
「フフフフ! ご機嫌斜めみてェだなァ、ん? フフフ、らしくも無ェ……焦ってんのか?」
 ニヤニヤと浮かべる笑いは忌々しく、いつでも崩れる事が無い。
「――。お前と話す事は何も無ェ……!」
 思わず足を止めてしまった自分に舌打ちしながら、クロコダイルはドフラミンゴから視線を外し、コートを翻らせた。
「あァ、そういやァワニ野郎……こないだは悪かったな。おれの部下が、“てめェんとこ”にとんだ“シツレー”をよ」
 先へ向かおうとするクロコダイルの足が再び止まる。
 ――ウイスキーピーク近海で、“丸いドクロに斜線の入ったジョリーロジャー”を掲げた船に突然襲われたそうよ。
「……!!」
 やはりお前が――と、云いかけたが、グッと飲み込む。
 しかし、その反応はドフラミンゴには充分だったようで、満足そうに笑い出した。
「フフ! フフフ!! そう怒るなよ。それにおれが指示したわけじゃねェぜ? まァ信じなくてもいいけどな」
「……」
(コイツは我が社の存在を知っている……)
 カマを掛けているようには思えなかったが、“秘密犯罪会社”であるバロックワークスの事が何処で漏れ出したのだろうか。ドフラミンゴが情報通である事は知っていたし、一年前にマリージョアで「計画」と云われている辺り、殆どの事は把握されているのだろうか。しかし真の目的――“軍事力”の事までは知るまい――。
 クロコダイルは涼しい顔でドフラミンゴの言葉を受け流していたが、頭の中では数え切れないクエスチョンが矢継ぎ早に浮かんでくる。
(何を企んでいやがる……?)
 ポーカーフェイスを崩したつもりはなかったが、その疑念は察しの良い彼には容易く伝わってしまう。
「フッフッフッ……。おれはお前に協力したくなっちまってよ……!」
 トレードマークの一つであるサングラスをグイ、と押し上げる。
「それで、ワニ野郎が居着いていやがる砂漠の国に来てやったわけなんだが……ナノハナっつったか? 港に船を泊めようとしたらよ、妙な海賊旗の船があったもんで、部下共が因縁ふっかけちまったんだよなァ……おれが寝てる間にちょっとした騒ぎよ、フフフフ!!」
 クロコダイルは自分のこめかみがピクリと痙攣するのを感じた。
「……協力だ? ふざけた事を抜かすんじゃねェ……何を知ったつもりで……!」
「まァ許してやってくれよ、おれの可愛い部下だ! それに “正義のヒーロー”の登場で部下は泣いて船に戻ってきたんだぜ?」
 大袈裟に両手を振り、肩をすくめる姿はどうにも腹立たしいものがある。
「それはてめェの躾不足のせいだろう、クソミンゴ。おれは“七武海”として当然の事をしたまでだ。この国に居座ってる以上、この国を荒らそうとする海賊を片すのはおれの役目だぜ」
 さっきは数人吹っ飛ばしただけだしな、とクロコダイルは鼻で笑う。
「だったら何故、“あっち”を助けた?」
 ニィ、と自分を試すかのような声と表情に、クロコダイルはドフラミンゴを真似、やれやれと大袈裟に首を振ってやった。

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