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「――下らねェ……!! バロックワークスと云う組織に“感情”は必要無ェ! 社員は“理想国家での地位”の為に働けばそれでいい……互いの素性を知らず、指令状の通りに動くと云う任務の遂行能力がありゃァそれでいい! 無駄に互いの事を知り、仲間意識なんざ持てば組織として足を引っ張る存在になるだけだ!!」
 それが”秘密犯罪会社・バロックワークス”。それが計画を成功に導く為の最重要な“社訓”。そして、それがクロコダイルと云う男の理念そのものだった。
 社長としての考えを吐き出したMr.0に、ミス・オールサンデーが険しい表情のまま目を眇める。
「何を怖れているの……?」
「――!!」
 クロコダイルが目を見開いた。
 無意識の内に持つ感情を暴かれた様な気がして、思わず息が止まる。
 部屋が突然静かになり、大きな水槽の中でバナナワニが泳ぐ水音だけが二人の様子と不釣り合いに心地良く流れていく。
 ミス・オールサンデーはクロコダイルをジッと見つめ、クロコダイルはミス・オールサンデーではなく彼女を通り越した所を見ていた。
 葉巻の煙がゆらゆらと上っては消える。
「……フ、クク……」
 不意にクロコダイルが口角を上げ、その肩を揺らし出した。
「……っ?」
 そんな様子を訝しみ、ミス・オールサンデーは僅かに眉根を寄せる。
「そうか……ク、ハハ…クハハハ! 解ったぜ、おれの今すべき事が……!」
 左腕の鉤爪に手をやり、至極愉快そうに高笑いを響かせた。
「アイツを、おれが消しゃァいい話じゃねェか!!」
 ミス・オールサンデーは息を呑んだ。
「! 何ですって!?」
 耳を疑い愕然とする彼女に、クロコダイルは更に嘲笑を重ねる。
「礼を云うぜ、ニコ・ロビン。おれとした事が“正体を知った者は抹殺する”と云う社訓を守らねェでいるとはな! ――クハハハ! 何故もっと早くに気付かなかったのか、おれもまだまだなモンだ…!」
 そう云うと、クロコダイルはコートを翻し、颯爽と扉へ向かう。
「ま、待って、ナセはっ――」
「黙りたまえ、ミス・オールサンデー」
 何とか搾り出した制止の声は、重く鋭い“ボス”の一言で押し止められた。
 あまりクロコダイルにも怯む事ないミス・オールサンデーだったが、その響きにはゾクリと震え、ぐっと言葉を飲み込む他無かった。
 自分の閃きになのか、よく通った声になのか、彼女の反応になのか――クロコダイルは振り返り、満足そうに頷く。
「姉妹仲良く死にてェならそうさせてやるぜ。だが、てめェを消すのは“ポーネグリフ”を…“プルトンの在りか”を解読させた後だ……!」
 クハハハ! と、何かが壊れたかの様にクロコダイルは笑いながら部屋を出て行った。一拍間を置いて、非情を見せつけるつもりか扉が大きな音を立てて閉まる。
「……、……っ!」
 ガクリ、と膝を落としたミス・オールサンデーはかろうじてソファの背凭れに掴まった。
「ナセ……!」
 ――私を昇格させて欲しいの。
 ――サーの為に社員として精一杯働きたいの、どんな危険な仕事でもやりたい!
 ――それでも私、姉さんの事大好きだもの。
 ついこの間触れたナセの笑顔や声が甦る。
「ごめんなさい……っ、私はまた、何もしてあげられない……!」
 結局自分は、自分を守る事しか出来ない――“リオ・ポーネグリフ”への夢を捨てきれず、動けなくなる自分にミス・オールサンデーは――ロビンは唇を噛んだ。

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