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 作戦後――ボスであるクロコダイルは国王になると云う事だ。国王の傍とはどんな役職があるんだろう……とナセは取り留めの無い事を考えながら、男に弱々しく微笑んでみせた。



「ミス・オールサンデー!!!」
 その足音からして既に怒り心頭なのは分かっていた。ここに鬼の様な形相を浮かべて入って来る事も。
 ミス・オールサンデーは怒鳴り声で離れて行ってしまったバナナワニをクスリと笑う。
「何か? Mr.0」
 音を立てて扉を開けたクロコダイルに怯む事なく、ミス・オールサンデーはソファから立ち上がった。
 額に青筋を浮き立たせ乱暴に向かってくる様は、実に“サー・クロコダイル”らしくない。
「何故、アイツが居る……!!?」
 “その事”に腹を立てている事は有難い事だった。しかし危険な賭けでもある。ミス・オールサンデーは緊張を隠しながら、フフと微笑んだ。
「アイツ? 誰のことかしら」
「……! テメェの妹だ、ニコ・ロビン!」
 舌打ちをして、クロコダイルは更に眉間の皺を深くする。
「何をそんなに怒っているの? 有能な社員は各地から呼び寄せ、ビリオンズ――ナンバーエージェントの控えとして活動させろと貴方が云ったのよ。あの子はビリオンズに昇格しただけ」
 ナセが希望したのだけど、とミス・オールサンデーは心の中で呟く。
「報告は聞いてねェ!」
「あら、報告書は届いている筈よ。沢山の書類に目を通すのも大変ね?」
 小首を傾げて笑うミス・オールサンデーにクロコダイルの神経は逆撫でされる。そして“そういう”女だと分かっているクロコダイルは普段なら彼女の挑発には乗らない……しかし今は違う。冷静さを欠き、憤っているのだ。
「だが“アイツ”は――!!」
「ナセは」
 そしてミス・オールサンデーもまた、彼女には珍しく声色を強めた。
「あの子はウイスキーピークで“ナンバーエージェントになっていない方がおかしい”と云われていた有能、有力な社員よ。報告書で何度も目にしているでしょう、そのコードネームは! ほかの社員もしくじってきた任務をいくつもこなして……時にはMr.6ペアとだって仕事をして……」
「そんな事ァ知ってる! 見てるさ、嫌でもその名をな! だがアイツはそこらの社員と同じじゃァ無ェ……“おれ”の事を知っている!!」
 Mr.0の正体がクロコダイルだと知る者はミス・オールサンデーとミス・ロビンだけ。ただの社員でも、それだけで随分と厄介な存在なのだ。だからウイスキーピークに遠ざけたと云うのに。
 ――こんな近くまで来やがって……!
 それをミス・オールサンデーも重々承知していた筈だ。こちらに近付ける真似などしないと思っていた。例え、ナセが望んでも。
 クロコダイルは、ナセがアラバスタに来てしまえば何かが崩れる様な、自分の中の何かが崩れてしまう様な、そんな恐怖を無意識の内に持っていた。
「そうよ、ナセは……“貴方を知っている”!!」
 大きな声を出す事に慣れていないのか、ミス・オールサンデーは苦しそうにその整った顔を歪める。
「……!?」
 クロコダイルはそんな彼女の様子にたじろぎそうになり、ギリ、と葉巻を噛んだ。
「知っているからこそ、あの子はあんなに頑張ってきた……何の為に? ナセは何の為に頑張って、独りで生きてきたと思うの!? 何の為に犯罪に手を汚して、ここまで来たと思っているの!?」

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