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「……」
 そんなナセの姿をクロコダイルは無意識に目で追っていた。
 バロックワークスの船が全速で港を出て行った頃、護衛隊の姿が遠くにうっすらと見え始め、クロコダイルは長居は無用と港に背を向ける。
「おれにはこの計画だけだ……。おれの求める“軍事力”が手に入った時に、おれは“お前”を一体どうする……?」
 独りごち、新しい葉巻に火をつけたその姿はやがて砂となり消えていった。



「ビリオンズに成り立ての社員はよく聞け」
 オフィサーエージェントの部下であるビリオンズの中でも、アラバスタに潜伏しているのは特に任務遂行能力が優秀な者たちだ。ナンバーエージェントこそまだなれないが、“ユートピア作戦”において重要な役割を担わされている。
 アラバスタ内に数カ所設置されているアジトの一つに、その“ビリオンズ”としてデビューしたナセ達も集まっていた。先程の“七武海”の登場での混乱に紛れ、ナノハナ港を出た彼らの船は砂漠に近い入江に停泊させてある。
「国王軍、反乱軍の双方に、既にビリオンズ数百名が潜り込んでんだ。作戦当日まで息を潜めていて、来たる“その日”には、どちらにも潰れて貰う為に混乱を招き、戦う奴らだ」
 このアジトの中で特にリーダー格である男が説明する。
「それで、おれ達の任務はと云うと……“その日”までに潜り込んでいるビリオンズ達と上手く接触しつつ、国王軍と反乱軍の情報を我が社に行き渡らせる事だ。その都度ボスに連絡し、指令状を待つ。準備が整ってきた今、情報戦になってくるとボスにも云われてる。おれ達は大事な任務を任されてんだ!」
 ナセと一緒にアラバスタへ来た者達は出世してきたのだと喜び、おおッ! と声を上げる。
「それを遂行していってよ、“その日”が終わりゃァ、おれ達晴れて理想国家の要人だぜ!?」
「うォォォ!!!」
 盛り上がる彼らをよそに、ナセは浮かない顔をしていた。
「……」
「どうした? お前、武者震いか? ハハハ……」
 そんな様子に気付いてか、同じ船に乗ってやってきた社員の一人が声を掛けてくる。
「あ、ううん……いつボスに逢えるのかなって思ってたの。計画前なのか、計画後なのか……」
「お前、船でもそんな事云ってたよなァ、そんなに気になるか?」
 驚く事に、ボスの正体を知りたがる者はあまり居なかった。それを口にすれば怪しまれるからと云う事もあったが、結局社員の頭の中を占めているのは“地位”であり、それに夢を馳せて入社している者が殆どなのだ。だから、そんなにボスの事を気にするのも珍しいとウイスキーピークでもよく云われていたのだ。
 ウイスキーピークと云えば――と、ナセはミス・ウェンズデーやMr.9達の事が気にかかっていた。何も告げずにミス・オールサンデーと出てきてしまったのだ。バンチに乗って島を出て、彼女の案内に従い、アラバスタ行きのバロックワークスの船に乗った訳だが、その直前、ミス・ウェンズデー達の事をポツリと口にしたナセにミス・オールサンデーは“いずれ逢える”と笑った。作戦決行の日までに、ナンバーエージェント達も集結すると云う事なのだろうか――。
「……」
 黙って考えているナセに、社員の男はニヤニヤと笑った。
「いつ逢えるにしても地位を上げておく事は大事だぜ。今頑張っておけば作戦後だってボスの傍に置いて貰えるだろうからなァ!」

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