80
「そうだわ、我が社の船をナノハナで見たの。ちょうど着いたところだったようだけど」
 グラスに少しだけ注ぎ、その香りを楽しみながら口をつける。ここにあるワインはクロコダイルが選んでいるのだが、どれも良いセンスをしているのだ。
「見てきたらどう? 今頃騒ぎになっているかもしれないわ」
「騒ぎだと?」
 振り向いたクロコダイルに、ミス・オールサンデーはフフ、と肩をすくめる。
「ええ、港にもう一隻海賊船が入ろうとしていて……ウチの社員が同業者と思われたみたいなの。“ドクロ”を掲げているからかしら? まあ、どちらにしろ護衛隊に“バロックワークス”を認識されるのは面倒ね」
 騒ぎに王国の護衛隊が駆けつければ、間違いなく社員達や船が目に留まる。“BAROQUE WORKS”も“社章”も船の帆には堂々と描かれており、勘の良い者はそれに気付くだろう。
 社員達が多数潜り込んでいる国王軍・反乱軍では、彼らは互いに同社員だと判る様に“社章”や“BAROQUE”を身に付け、目印としている。護衛隊員がそれに気付く事で怪しまれるのは『ユートピア』実行の為には得策ではない。
 クロコダイルは舌打ちをした。
「そう云う事はもっと早く云え……!」
 面倒臭そうな表情で足早にドアへと向かう。
「行くの?」
 肩越しにクロコダイルを見れば、当たり前だと云う風に、フンと鼻を鳴らす。
「海賊を潰すのは“王下七武海”、この国では英雄の仕事だからな」
 そう云い捨て、事務所からクロコダイルは出て行った。
「……」
 ドアが音を立てて閉まると、ミス・オールサンデーはグラスを置いて一息吐き――そして、祈るようにその瞳を閉じたのだった。



 サンディ島の港町『ナノハナ』には、二隻の海賊船が停泊していた。
 否、片方は海賊船に見えるだけで、実際は“秘密犯罪会社”の所有する船である。
 本当の海賊である者達は血気盛んなようで、先に停泊しようとしていたその船を見つけるや否や、ケンカを売るが如く、船に当たるギリギリの所に砲撃を仕掛けてきた。
 それならばと、“翼とレイピアを添えたドクロ”を掲げる彼らが応戦しない筈がない。
 香水の香る港は、荒々しい声と銃声、サーベルがぶつかり合う金属音が響く騒ぎとなってしまった。
「オイオイ、ふざけんじゃねェぞコイツら! やっと昇格だってのに!」
「そうだぜ、こんな所でやられて堪るかっつーの!」
 秘密犯罪会社――“バロックワークス”の社員達が、それぞれの得物を振るいながら声を上げていた。
「……やれやれ、あんな格下の海賊共に手を焼くとは我が社の恥だぜ」
 歩いて一日以上かかる道のりを、砂となり早々とナノハナへ到着したクロコダイルは、その様子を建物の上から見下ろす。
 どちらが海賊で、どちらが部下達である事は、彼にとっては一目瞭然である。
「まだ護衛隊の奴らは来てねェな」
 アラバスタ国内での海賊による争い事は、この“砂漠の王”が殆ど鎮圧していた。
 クロコダイルの登場により、海賊は恐れおののき逃げ出すか、一人きりで現れた彼に優位を笑う。立ち向かったところで、たちまちミイラにされてしまう事など知らない暗愚な海賊は、“王下七武海”の報酬首となってしまうのだ。
 ミス・オールサンデーしか見た事が無いと云う“Mr.0”――ボスが自分達を見ている事など知る由もなく“ビリオンズ”になり立ての社員達は必死に戦っている。
「フン……そろそろ助けてやるか」
 そう笑うと、葉巻を足元で潰した。

- 80 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -