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 この想いを、強く届けられる場所、任務。それにはやはり“地位”が必要なのだ。
 「貧弱でも役には立つ」とクロコダイルが云ったウイスキーピーク――。
「もう、私……“貧弱”じゃない」
 ナセは自分に云い聞かせる様に小さく呟き、手を握り締めた。
「だから昇格させて欲しいの!!」
 想いを込めて、ナセはミス・オールサンデーを見上げる。
「……ナセ……」
 ミス・オールサンデーはその瞳にふと思い出すものがあった。ついさっきに感じた感覚と似た、懐古感。
 漆黒の色に爛々と、そして醸し出す凛とした雰囲気。
(これは……貴女を見つけた時と同じね……)
 複雑な気持ちで、その色を見つめ返すミス・オールサンデーの表情が少し曇る。
 危険な事はさせたくない。願わくば、この組織の事など、クロコダイルの事など忘れて、何処か遠くで静かに暮らして欲しかった。たった一人の“妹”として幸せに――けれど。
(貴女の幸せは、貴女が決める事だもの)
「分かったわ……オフィサーエージェントの部下である“ビリオンズ”に昇格させてあげる」
 ミス・オールサンデーは、優しく微笑んだ。
「――! ありがとうっ、姉さん……!」
 ナセはその笑みに一瞬目を見開くと、彼女の意図を読み取って、ふわりと笑う。
「私も……覚悟を決めなければ、ね」
 独り言の様に小さく呟きながら、ミス・オールサンデーはナセの頭を撫でた。
 その時、遠くの方から社員達のものと思われる足音が聞こえてきた。
「ね、……ミス・オールサンデー」
 ナセの小声にミス・オールサンデーは頷く。
 テンガロンハットを再び深く被り直した彼女は出口へ向かい、スイングドアに手を掛けた。
「じゃあ、早速向かって貰うわ。行きましょう、ミス・ロビン」
 白いコートが翻り、美しいラインの縁取る瞳がナセを見据える。
「――『アラバスタ』へ」



 近頃の砂の王国は何処か落ち着きがなく、暴動や衝突が頻繁に起きていた。
 しかし、そんな騒ぎもまるで他人事の様に栄え賑わっているのが“夢の町”――レインベース。
 そのレインベースに一際目立つ大きなバナナワニの建造物があり、それがこの町最大のカジノ・レインディナーズだ。
 橋を渡って正面ゲートをくぐれば、一獲千金を夢見た多くの人がルーレットやブラックジャックに夢中になっている――暴動や衝突の原因が、地下にある事務所で計画されている事だとも知らずに……。
 来る“最終作戦決行”を控え、バロックワークスにとっては程良く国内は荒れ、反乱も起きている。“国王軍”と“反乱軍”は衝突を繰り返しており、その双方に社員を潜り込ませる事にも成功している。
「反乱勃発中だと云うのに、今日も上のカジノは賑やかね」
 アラバスタ周辺を見回り、社員の動きを確認し終えたミス・オールサンデーが、地下の事務所へ戻ってきた。この頃はアラバスタで動く優秀な人材を集める為、方々の拠点へ出向いていて、ここへ来るのも久しぶりである。
「御苦労だったな、ミス・オールサンデー。“使える奴”は集まっているのか」
 バナナワニの泳ぐ大きな水槽を眺めていたクロコダイルは、振り向く事なく言葉だけの労いを掛けた。任務が立て込む社員に比べ、社長は少々暇気味らしい。
「ええ、上々よ。順調な運びじゃなくて?」
 ミス・オールサンデーはサービスワゴンに用意してあるワインボトルを手に取った。

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