78
「――彼がしている事を知っても、気持ちは変わっていなくて?」
 犯罪会社を設立運営している上に、最終目的は一つの国を乗っ取る事だ。乗っ取られる方も黙っている訳ではないだろうし、沢山の犠牲の上に成り立つ新国家だと云う事は目に見えている。
 そんな云わば“悪役”になろうとしているボス――クロコダイルの策略を知っても、尚も想いは変わらないのかと、彼女は疑問に思っていたのだ。
 しかし、ナセはニコリと笑った。
「ふふっ、変な事聞くのね。姉さんはその“犯罪会社”の副社長なんでしょう?」
「……」
「それでも私、姉さんの事大好きだもの」
 その後は聞かずとも分かる。
 聞くまでもなかったようね、とミス・オールサンデーは微笑んで肩をすくめた。
「……」
 暫く二人に沈黙が訪れた。
 そう云えば、社員達はどうしているのだろう、とナセは不思議に思った。副社長が何処に居るのかと探し回っているのであれば、もうじきここに戻ってくる可能性も高い――話すのなら今しかない。
「ねえ、姉さん――いえ、ミス・オールサンデー」
「……?」
 ナセに“その名”で呼ばれた事が初めてだったミス・オールサンデーは思わず表情を固くした。今、彼女の前に居るのは“社員”だった。
「私を昇格させて欲しいの」
「!」
 その言葉に眉をひそめる。
 確かに、現時点でナセの実績から見れば“ミリオンズ”には勿体無いレベルである。昇格しても間違いない、とMr.8が云っていた様に、またミス・オールサンデーもそう思っていた。しかし。
「ダメよ、まだ時じゃないわ」
 最高司令官はハッキリと告げた。
 時じゃない――そう云いながらも、ならばいつが“その時”なのかと聞かれたら、彼女は答えられない気がしていた。
「……」
 そしてまた、判然と答えたミス・オールサンデーの目に迷いが生じている事を、ナセは見逃さなかった。
「昇格したらもっと危険な任務が貰えるんでしょう? もっと役に立てる任務が来るんでしょう……!?」
 ミリオンズが請ける任務と云えば、賞金稼ぎとなって会社の資金を稼ぐ事だ。賞金首を狙い、強盗を働き、詐欺を仕組む。それに命の危険は伴いもするが、“人並みな強さ”を持っている彼らが会社に与える恩恵は、“その程度”である。
 それは今のナセには歯痒いものだった。
「姉さんが云った事はまだ覚えてる。“強くなりなさい”って。 私、少しは自分の事を守れるようになった……!」
 ナセの脳裏には、自分を庇い大怪我を負うクロコダイルの姿が浮かんだ。一年経っても決して忘れる事の出来ない映像に、今も手が震える。
「あのね、姉さん。私はね……サーに逢えなくてもいいと思ってるの」
 俯くナセに、ミス・オールサンデーの胸が痛む。
「“強くなれば必ずまたここへ戻れる”ってアラバスタで云ってくれた事、信じて今日まで生きてきた。でも、それが叶うかどうかなんて姉さんでさえ確証持てないっていうのも、少しずつ分かってきた。それに“約束を破った”私には、ちょうどいい罰なのかもしれないって。だから、この計画の為に……サーの為に社員として精一杯働きたいの、どんな危険な仕事でもやりたい!」
 ミリオンズ以上になれば、もっと任務は難しく、“クビ”も“死”も近くなる。が、『Mr.0』にも近付く事が出来るのだ。それはナセにとって正体を知る事や距離の問題ではなく“彼に出来る事”であった。

- 78 -




←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -