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「強くなって? ミス・ロビン」
 その答えは、レインディナーズに送られてくる報告書を見れば分かる事だったが、ナセは笑って頷いた。
「“銃の腕でアナタの右に出る者は居ない”って、ミス・ウェンズデーが云ってくれたの」
 いざ任務と云う際、丸腰で向かうナセに、ほらよと渡されたのがピストルだった。最初はその反動で後ろにひっくり返っていたものだが、誰に教わるでもなく自分で鍛練を積んだ結果は、実力として評価されるまでに至るのだ。
 そんなナセの誇らしげな様子にミス・オールサンデーは微笑んだ。
「フフ――そう……ミス・ウェンズデーがね……」
「?」
 ミス・オールサンデーの小さな呟きに首を傾げるも、ナセは特に気には留めなかった。
「ところで、姉さんは何の任務でここへ? みんな大騒ぎよ」
 余程の事が無ければ来ない……ではその“余程の事”とは何なのか、ナセは興味津々に尋ねる。
「ボスの正体を探ろうとしている者が居るらしいわ。それが誰か――は、何となく検討はつくけれど。それを確認しに来ただけよ」
 報告してきたアンラッキーズは特定出来ていないみたいね、と云おうとしたミス・オールサンデーだったが、目を丸くして息を飲んでいるナセに気付く。
「安心して。ナセがボスの事を口外するなんて思ってないわ。私は勿論、“彼”もね」
 そう、それは本当だった。「ウイスキーピークにスパイが居る」と云う情報を聞いた時、まさか、とナセを疑う事はなかった。それは、Mr.0の様子からも窺えた。
 そう云われて安心したのか、良かった……と息を吐いたナセは、少し俯き気味で口を開く。
「……確認し終わったら、アラバスタへ帰っちゃうの?」
 その声は云わずもがな、憂いを含む。それを感じ取り、ミス・オールサンデーは表情を落とした。
「あの国は、このところ立て込んでいるの――根回しする事が山程よ。社員も集まってきているわ」
「“最終目的”を果たす為の作戦が始まる、って事ね」
 きた、とナセは悪戯っぽくミス・オールサンデーを見上げた。
 ミス・オールサンデーは驚いた様子は見せないものの、何度か瞬きをしてから口元に笑みを湛える。
「あら、作戦内容を知っているように見えるけれど? ビリオンズはおろか、オフィサーエージェントもまだ知らされていない事よ」
「“理想国家の建設”としか教えて貰ってないものね。でも、私がアラバスタに居た時の事とかサーの事とか、よく考えてみたら多分……“国盗り”かなって」
 “ユートピア作戦”の事は、現時点ではMr.0とミス・オールサンデーしか知らない。勿論、それがアラバスタ王国の乗っ取りである事を知る社員は今は居ない筈だった。ただ、“スパイ”である者達を除いては、だが。
「フフ、いい勘だこと。さすがは優秀社員、報告書はいつも完璧だものね」
 クスクスと笑った後、ミス・オールサンデーはふとその表情を落とした。

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