05
「でも、姉さんやクロコダイルさんに出逢えたんだから運はいいの、きっと!」
 なんだか可笑しいけど、と肩をすくめるナセを、クロコダイルが鼻で笑う。
「フン……だったら本当に運がいいのか見せて貰おうじゃねェか」
 そう云うと、彼は持っている全てのチップを“黒の33”に置いた。ナセは目を丸くして、レイアウト上に積み上がったチップを見つめる。
「そんな……ストレートで全部賭けなくてもいいんじゃないの?」
「お前は1ゲーム目からずっとストレートだろう」
「だってその方が簡単だもの。ハンデもあったし、やってみようかなって……」
 1つの数字に絞るのは当たる確率が下がるが、当たれば貰える金額は一番高い。
 ナセは色々と考えるのが面倒なので全てストレートで賭けていたが、それを見たクロコダイルは、自分もそうしなければ小娘相手に情けないような気がして、ストレート勝負で賭けてきていた。
「おれァ、これに賭ける」
「……じゃあ、私はレッド! 全部賭ける!」
 ナセはレイアウトの赤いひし形の上に、自分の持っているチップを置いた。
「……てめェ、いい性格してんじゃねェか」
「ふふ、どうせ私が勝つゲームだったもの。それならこの方が面白いじゃない?」
 つまり、ボールがどの数字でも赤に落ちればナセの勝ち。黒の33に落ちればクロコダイルの逆転勝ちだ。ちなみにその他の黒に落ちれば、二人でゲームオーバー。
 際どいゲームにクロコダイルはニヤリと笑う。
「いいのか? これで黒の33に落ちたら、お前はおれの云う事を聞くんだぜ?」
 ナセは勢いよく笑顔で頷く。
 ディーラーはボールをホイールに投げ入れた。



「絶対クロコダイルさんのオーラのせいだ……」
 地下の事務所に戻り、ナセはソファに突っ伏していた。
 向かいのソファでは、クロコダイルが葉巻に火を付けて薄笑いを浮かべている。
「負けた奴がそういう事を云うのは、大人げ無ェんじゃなかったのか?」
「私、大人じゃないもの」
 不貞腐れた様子はまさに子供だ。
 煙をフーッと吐きながら、クロコダイルは面白そうに口角を上げる。
「そう云うガキでも、約束を守る事ってのは出来るだろうな?」
 勝負がついた今、勝者であるクロコダイルの条件をナセは為さなければならない。
 ナセは溜め息を吐いて、ソファから起き上がった。
「約束は守ります! そこまで子供じゃないし……それに、お仕事を中断して私の暇潰しに付き合ってくれたんだもの。ありがとう、クロコダイルさん」

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