75
「アイツはもうこの町に来てんのか?」
 Mr.9の質問に、報告に来た社員は首を振る。
「それは分からねェ……見張りからは、ミス・オールサンデーの乗ったカメが入り江に着いたと云う事しか」
「とにかく外に出てようずを゛ッ! ……マ〜マ〜マ〜……様子を探らねば」
 Mr.8がそう云うと、ミス・ウェンズデーが頷いた。
「もしかしたら、Mr.10ペアの引き継ぎの話かもしれないわよ、ミス・ロビン……って、あら?」
 振り向いた先には、ミス・ロビンの姿は無かった。
「ミス・ロビンなら、先に出て行ったよ」
 気付かなかったのかい、とミス・マンデーが肩をすくめて云うと、残された幹部の三名は顔を見合わせる。
「やっぱりあの子も昇格したいんじゃないかしら」
「そりゃそうさ、ミス・ウェンズデー。誰だって“理想国家”の要人の地位は欲しいもんさ」
 社員としては当たり前の言葉だったが、“理想国家”と口にした瞬間、ミス・ウェンズデーの表情が固くなった。
「そう、ね……」
 そんな様子にMr.9は首を傾げたが、Mr.8が先に口を開いた。
「ミス・ロビンはミス・オールサンデーから直接スカウトを受けて入社したと聞くからな……あの子がミリオンズだとしても、“飛び級”は有り得る事かもしれん」
「……それならそれで……楽しみだけど――」
 ミス・ウェンズデーは小さな溜め息を吐く。
 どんなに慕われていても、ミス・ロビンとの間には一線が引かれているのを感じていた。彼女の任務遂行の仕方はとても正確で、とても機械的で。そして自分の為に仕事をしている風には見えなかった。
 ミス・ロビンの心の中に揺るぎない信念があるからこそだろうが、それは他の社員よりも強く純粋なもののように思う。それが逆に“自分とは相容れぬもの”だと感じさせ、時々苦しくなった。
(そんなの……今の私には不必要なのに――)
 一国の王女は、彼女に逢う事がもう無いような、何故かそんな気持ちに襲われながら、静かに戸が揺れる出口を見つめていた。



 息が切れる。
 けれど、ミス・ロビン――ナセは走っていた。
 何処に居るかも分からないのに、とにかくこの町を見回るようにグルグルと走っていた。
 ミス・オールサンデーがこの島に来た――それは、この一年間でも無かった事である。
 一年前にアラバスタで別れて以来、一度も逢っていない。
「はァ……はァッ……姉さん……!」
 ウイスキーピークに来た当初は、様子を見に来てくれるのではと期待していたが、何の連絡も無く、任務の折に逢う事も無かった。
 それは、互いの安全の為であり、秘密主義の社訓を守る為である事をすぐに理解したナセだったが、それでもとてつもない寂しさに襲われたのは記憶に新しい。
 ミス・オールサンデーの言葉だけを信じ、見知らぬ土地で見知らぬ人間と犯罪に手を染める日々は、苦痛以外の何物でもない。

- 75 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -