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「な、な……急に何を云うの……!?」
 こうなっては誤魔化しようもないのに、ナセは苦し紛れに俯いたまま問う。
「フフフ……勘違いするなよ、急にお前に惚れた訳じゃねェ。マリージョアで逢った“あの日”から、おれはお前を気に入ってたんだぜ?」
 ――マリージョア。
 その言葉を聞けば、一年前の沢山の出来事が甦る。
 個性的な面々の“七武海”や海軍本部の者達との会話、軍艦での航海、そして――。
「“こうなる事”は予想がついてたからよ、それを利用する手は無ェと思ってた。まァ、お前を見つけ出すのに結構手こずっちまったがな。まさかグランドラインの入り口に居るとはな」
 フッフッフ、とドフラミンゴは笑い、そこから見えるサボテン岩に視線を向けた。横目でチラリとナセを見れば、物思いに耽っているのか、じっと地面を眺めている。
「ナセ」
 指をふわりと動かせば、ナセはすぐにこちらを向いた。
「……」
 その表情も、瞳の色も、以前とは随分違う。
「あれから何があったかは想像だが、“お前ら”が別々の場所に居る……しかも、ナセに至っちゃァ“こんなトコ”だ。武器も扱えるようになっちまったんだろ?」
 腰に覗く銃を顎で指すと、ドフラミンゴは再び声を低め、鋭くも熱い視線でナセを射抜いた。
「おれと来い、ナセ。いつ“アイツ”に逢えるかも分からねェ、だろう?」
 アイツ、と聞いてその顔が曇る。
「そう、だけど……」
 ナセは再び俯いた。
 ――強くなれば必ず、またここへ戻れるわ――
 慣れない環境下で、犯罪に手を染めて必死に生きた約一年間。ミス・オールサンデーの言葉をただ信じて、それだけを頼りにしてきたのだ。
 けれど、それが叶う確証は無い。噂に聞くオフィサー・エージェントでさえボスの顔を見た事が無いと云うのだ。計画が成功すればその顔も拝む事が出来るのだろうか。それとも一生逢う事もなく、社員として使われる事になるのかもしれない。
 そんな不安を抱えているナセに、その言葉は思いの外キツかった。
 思い詰めた様子に気付いたのか、ドフラミンゴは後頭部をガリガリと掻きながら、口をへの字に結ぶ。
「……なァ、ナセ」
 彼にしては珍しく、掛ける言葉を探していて、そんな声色にナセは顔を上げた。
「“ファーストハーフ”、しかも入口にある島なんかにお前は勿体無ェ。なに、不自由はさせねェさ。おれの知る最高の島へ――“新世界”へナセを連れて行ってやる」
 注がれる視線と言葉は差し伸べられる手のようで、久しく感じていない人の温もりを求め、ナセは思わず手を伸ばしたくなった。
「ドフラミンゴさん……」
 逢いたいと願う男とは対照的な色を持つドフラミンゴ。ついて行けば、本当に不自由はしないだろうとナセは直感的に思う。不安もなく、きっと見た事の無い世界が見れるだろう。
「……っ……う、」
 ポロポロと涙が零れた。
 久しぶりに泣いた、と思いながら。
「逢えて嬉しい、の……っ」
 ここへ来てからは、ミス・オールサンデーにさえ全く逢えずにいたナセには、一度話しただけであるドフラミンゴさえも懐かしく、再会を喜ばない訳が無かった。それに、純粋に嬉しかった。
 自分を探し、逢いに来てくれた。彼自ら迎えに来てくれたのだ。

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