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 バロックワークスの船は、帆に“翼とレイピアを背負ったドクロ”が描かれており、海賊だと思われる事がしばしばある。ゆえに賞金稼ぎや海賊には狙われやすく、襲撃されたと云う話も少なくはない。幸い、海軍に目を留められた事はない為、“我が社”は今も“秘密犯罪会社”として成立している。
 しかし、たった今の事件が、そう云った“誤解”の襲撃によるものなら良いが、もし――。
(もし、“ボスの計画”を邪魔する者だとしたら、タダじゃ置かない……!)
 この町に居る社員の誰よりも、“ボスへの想い”が強いナセは、腰に括りつけられた銃を握り締めた。
 ――と。
「――ッ!?」
 突然、両足が動かなくなり、ナセは前につんのめりそうになった。
「ッわ、……!」
 かと思いきや、勝手に右足が前に出て、それを阻止する。
 急に立ち止まったナセを、後ろから走って来た社員達が不思議そうに見ながら追い越していく。
「なっ……何なの……!?」
 混乱しながら足を見下ろすが、再び足は勝手に動き出した。
「わ、わ、わっ……!?」
 何かに操られるかのように、ナセは行きたい方向とは別の方へ歩いて行く。
 スタスタと自分の体に連れてこられたのは、タルや木箱が乱雑に置かれている路地裏だった。
 遠くの方で社員達のものであろう声が聞こえる。この付近には誰一人居ないだろう。
「……な、何で私、こんな所に……」
 気味が悪くなり、ようやく止まってくれた足を擦る。と、キョロキョロ辺りを見回しているナセの頭上から、不意に声が降ってきた。
「――来てくれて嬉しいぜ? ナセちゃんよォ」
 それは聞き覚えのある声だった。
「あなた……ドフラ、ミンゴさん……ッ!?」
 その名の主は、二階デッキのフェンスに腰掛けていた。変わらずのピンクのコートを羽織り、サングラスの下でニヤニヤと笑っている。
「フッフッフ! 久しぶりだなァ……覚えていてくれるとは嬉しいぜ」
 それは、こんな風貌の男を忘れろと云う方が無理な話だろう。
「なっ、何故ここに!?」
 ナセの驚いた様子が可笑しいのか、ドフラミンゴは独特の笑い声を上げながら、後ろに仰け反る。
「“たまたま”通りかかったのさァ。フフッ……そんで、“たまたま”近くを通りかかった“怪しげな船”を、おれの部下が攻撃しちまってよ――フッフッフ!」
 変なドクロを掲げてたからかねェ? とドフラミンゴが笑うと、ナセはハッと目を見開いた。
「まさか……あなたがっ!?」
「おれァ何の指示も出して無ェぜ? “たまたま”撃っちまった……フフッフッフッ、それでこの騒ぎか? フフフ! 驚かせちまって悪ィなァ」
 ドフラミンゴの表情からは真意は読み取れず、ナセはピンクの鳥を探るように見上げる。
「……」
 すると何故かドフラミンゴは笑うのを止め、声を低めた。
「一年くれェ経ったか……随分大人びたもんだな」
 まァ、おれからすりゃァまだまだ“嬢ちゃん”だがな、と付け足す。
「あなたは全然変わらないね、ドフラミンゴさん」
「フフ! 云うねェ……!」
 肩をすくめたドフラミンゴのピンクの羽が、ゆらゆらと揺れた。
「――なァ、おれの女になれよ、ナセ」
「え?」
 ポツリと零された突然過ぎる言葉に、ナセは耳を疑った。
「フフ……おれは本気だぜ?」
 ドフラミンゴの口角は上がってはいるが、確かに雰囲気と笑顔の奥の表情から真剣さが伝わってくる。
「……っ!」
 それに気付けば、顔が赤くならない訳が無い。思わずナセは俯いてしまった。

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