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「ふふ! ここで、銃の腕でアナタの右に出る者は居ないわ。自信を持つのよ、ミス・ロビン」
 ミス・ウェンズデーが微笑むと、ミス・ロビンもそれに応えて目を細めた。
 彼女はこの町に派遣されてきた当初、盗みも騙しも殺しもした事が無い純粋な少女で、武器の扱い方も知らなかった。
 何故“秘密犯罪会社”に入社したのか、と誰もが疑問に思うところかもしれないが、“謎がモットー”であるバロックワークスで、それを聞く者は居なかった。
 彼女よりも幼い子供も居れば、カジノで摩ってここまで来た者も居る――つまり訳アリ社員が多い。そして、下手に探れば“裏切り”と見なされるこの社内では、疑問に思う事さえ無い者が殆どだ。“志望理由”は全て“理想国家建国後の要人の地位”であり、何から何まで謎でも構わない――それがバロックワークスで働く社員の意思である。
 かくして、そんな“訳アリ社員”の一人であるミス・ロビンが、その名を町の賞金稼ぎに覚えられる程になったのは、彼女の並々ならぬ努力があったからでろう。
 全ては“ある想い”を遂げる為、一心不乱に生きてきたからだと云うのは、勿論誰も知らない。
「そうだとも、それに任務遂行能力の高さだ……ミリオンズとして動いているのは実に勿体無いと思うが。ナンバーエージェン゛ドッ……ン゛、マーマーマーマーマ〜〜……ナンバーエージェントではないのが不思議な程だ」
 世辞ではないと思われるMr.8の言葉に、ミス・ロビンは困ったように笑った。
 ――その時。
 急に外が騒がしくなり、バタバタと社員達の足音が聞こえて来た。
「……何かしら?」
 ミス・ウェンズデーが訝しげに窓の外に目を向ける。
 すると、ドンドン! と慌てた様子のノックが響き、Mr.8が立ち上がってドアを開けた。
「ミス・マンデー、海賊でも来たのか?」
 そこには、マッチョな女が肩で息をしながら立っていた。その後ろでは社員達が、何だ何だと同じ方向へ駆けて行く。
「いや、すぐ傍で船が転覆してるって見張りから情報が入ったんだ! しかもその船、バロックワークスのマークが入ってたって云うもんだ……!」
 その言葉に、一同が目を見開く。
「何ッ……!? どう云う事だ……まず、船を寄こすと云う報告すら受けていないが――」
「それより、何だってその船は転覆してるんだ?」
 Mr.9は報告書とペンを放り投げて、ドアへと駆け寄る。
 ミス・マンデーは更に険しい顔になった。
「あたしは見てないから分からないが、見張りによれば“砲撃音”が聞こえたらしい。至るところから火が上がっていたってさ」
「じゃあ……!」
 息を飲む一同。考えられる事は一つだ。
「と、とりあえず我々も向かおう、現状を把握せねば……!」
 Mr.8がそう云うと、皆は頷いて外に出た。
「ま、待って!」
 一人、座って話を聞いていたミス・ロビンは、慌てて立ち上がる。
「急いで、ミス・ロビン!」
 外に出た時には、皆は既に走り出していて、何十人と居る社員達の群れの中に、ミス・ウェンズデーの声が聞こえた。
 彼女達とはぐれても、みんなについて行けばいいのだろうと、ミス・ロビンもおもむろに走り出す。
「どうしてバロックワークスの船が攻撃されたのかな……?」
 ミス・ロビン――もとい、ナセは騒がしさの中で呟いた。

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