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 フォローのようにミス・オールサンデーがそう云えば、クロコダイルはチッと小さく舌打ちをした。そこでようやく葉巻が残り僅かな事に気付いたのか、おもむろに灰皿に潰す。
「……Mr.10ペアを、ウイスキーピークへ派遣しろ」
 皺苦茶にしたFAXをテーブルに放り、新しい葉巻をケースから取り出す。
「あの島の近くに居る筈だろう」
 クロコダイルが葉巻を咥え、火をつけるのを眺めながら、ミス・オールサンデーは微笑んだ。
「ええ。すぐに指令状と、ウイスキーピークのエターナルポースを、アンラッキーズに届けさせるわ」
 ミス・オールサンデーは、持っていた書類の束を一旦机に戻すと、椅子に腰掛けて作業へ入る。
 クロコダイルはと云えば、すぐ傍に歩み寄って来たバナナワニの顎を撫でていた。スパイよりも何よりも、どうしても思考を引っ張られる“その名前”を振り切るように、フウッと勢い良く煙を吐くと、バナナワニは煙たそうに顔をしかめるのであった。



「クソッ……あのフラワージジイ! 我らの任務をことごとく邪魔してくれる!」
 ――ここは、サボテン岩が美しいウイスキーピーク。
 その町のバロックワークス社員が拠点とする小屋では、頭に王冠を乗せた男が歯ぎしりしていた。
「でもMr.9、今回の報告はどうするつもりなの? 任務を二度も失敗するなんて、どう云い訳したら良いのか……」
 Mr.9と呼ばれた男とテーブルを挟み、青い髪を結いあげた女が“報告書”の前で溜め息を吐く。
 その横で、髪をこれでもかと巻いた男が腕を組みながら唸った。
「それよ゛り゛、ゴホン! マーマーマーマーマ〜〜……それより、アンラッキーズを警戒した方が良い。最近、彼らはやたらとウイスキーピーク周辺をうろついている。彼らの耳に入れば裏切りと判断され、良ければ爆弾の仕置き、悪ければクビだ」
「ひィ……!!」
 その言葉に、机を挟む男女は情けない声を出して身震いする。彼らが社員として活動する上では、クビ=抹殺、なのだから。
 すると、部屋の隅で黙々と銃を磨いていた女が口を開いた。
「Mr.8、どうしてアンラッキーズはここら辺を飛んでるのかしら。資金稼ぎの拠点である島や町は他にもあるのに」
 彼女はぼんやりと云ったが、Mr.8と云う男と青い髪の女はビクリと肩を揺らす。
「……さあ。何かを嗅ぎ回っているようだとミス・マンデーが云っていたが……理由は分がら゛ッ……ら゛! マーマーマ〜……分からんな」
「そう……」
 首を傾げる銃の女は、俯いている青い髪の女を見つめた。
「ミス・ウェンズデー、どうかした?」
 声を掛けられ、青い髪の女――ミス・ウェンズデーはハッと気付いたように顔を上げる。
「何でもないわ、ミス・ロビン。あなたこそ調子はどう? ここへ来てもう一年になるんでしょう?」
「ええ」
 ミス・ロビンと呼ばれた女がこの町にやって来た時から、既にビリオンズとして活動していたミス・ウェンズデーは、大人しいミス・ロビンの事を気に掛けていた。ナンバーエージェントとして昇格し、ビリオンズを率いる立場になってからも、何かと世話を焼いてくれるミス・ウェンズデーの事を、ミス・ロビンもまた慕っていた。
「もう! せっかくアナタは可愛い顔をしてるのよ、笑ったらもっとステキなのに」
「ハハハ、ここに初めて来た時には喋りもしなかったもんなァ。もう慣れたのかい?」
 Mr.9が羽ペンを弄びながらそう聞けば、ミス・ロビンは小さく頷いた。
「まあね……サボテン岩の墓標にはまだ慣れないけど。でも私、銃も扱えるようになったし、エージェントとして何とか動けるようになった気がする」

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