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「ナセ、」
 名を呼ばれ、ナセは顔を上げた。まだ目に残る涙をそっと拭う。
「――彼の事が好き?」
 海軍に召集され、クロコダイルはナセを連れて軍艦に乗った。そこから“ルーク”に襲われるまで、きっと二人の間には何かがあったのだろう。ナセは口にしたが、クロコダイルにも心境の変化があったに違いない。
「……うん、好き。誰よりもサーが好きって、帰って来る前に気付いたの……一緒に居たいって強く思えたから……」
 恥ずかしげも無く、素直な気持ちを口にするナセに、ミス・オールサンデーは少し羨ましい気さえした。自分とは違う道を歩んで欲しいと思いながら、栗色の髪をふわりと撫でる。
「強くなりなさい、ナセ」
 闇の世界に生きるのではなく、幸せになって欲しいと願うのはもう遅いのだとしても、どうしても願いたい。
 七武海・クロコダイルの傍と云うのは危険が付き纏うもの、けれどナセはそれを厭わぬくらいにクロコダイルを想っているのだと、ミス・オールサンデーは感じ取った。
「彼の傍に居たいなら強くなるの。自分の身は自分で守れるくらいに。ナセの手が汚れるのは見たくないけれど――強くなれば必ず、またここへ戻れるわ」
 ミス・オールサンデーの言葉に、ナセは涙を我慢するように唇をキュッと締める。
「本当?」
「ええ」
「サーは私の事、忘れないかな……っ」
「ええ」
 それがその場しのぎの言葉であったとしても構わなかった。
「姉さんも?」
「勿論よ、忘れないわ」
 つらそうに微笑み、頷くミス・オールサンデーに、ナセも涙ぐみながら微笑み返した。
 その時、波止場に停泊したバロックワークスの船から、ぞろぞろと社員が降りて来て、忙しそうに作業を始め出した。荷を下ろしたり、積んだりと騒がしくなった波止場から、一人の男が駆け寄って来る。
「ご苦労ね、待っていたわ」
 瞬時に冷たい表情へと変えたミス・オールサンデーが、その男に声を掛けた。
「すぐに作業は終わりますよ。指令状が届いてから急いで出航したもんで、ちょいと物資の調達が必要になっちまったんでさ……アラバスタに船を出せっつー指令は遂行って事でいいっすね?」
 男は積み荷が行われているのを振り返りながら、慣れたように云う。
「ええ。ボスに伝えておくわ――それと、これからの指令だけれど」
 ミス・オールサンデーは、必要物資を積み次第、すぐに出航をと指示を出す。
「そして……この子をウイスキーピークへ。新たな社員よ」
 後ろに立っていたナセを振り向き、男に紹介する。
「……、」
 突然の事でナセは少したじろいだものの、意を決したように顔を引き締めて男を見上げた。
「あ、の……宜しくお願いします!」
 男はナセをジロジロと見つめ、それからニヤッと笑う。話しやすくはありそうだったが、やはり“犯罪者”と云うものを匂わせる。
「同じミリオンズか、これで社員は1500人は下らねェなァ……お前も“理想国家”に夢見て入ったってクチかい」
「“理想国家”……?」
 再び聞き慣れない言葉に、ナセは首を傾げかけたが、ミス・オールサンデーの手がそれを制するように目の前に突き出された。
「“指令はすみやかに遂行する事”よね? 積み荷も終わったわ、すぐに船を出しなさい」
 ミス・オールサンデーの冷ややかな声に、男はビクリと反応する。
「りょ、了解でさ……! おい新入り、コードネームはなんてんだ?」
「えっ? あ、えっと……」

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