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「せいぜい、姉妹で最後のお別れでもするんだな」
 そう云い放つと、クロコダイルは再びバサリとコートを翻し、ナセの傍を離れて行く。
「………………」
 もう、動けなかった。
 きっと、もう振り向く事もない。きっと、もう会う事も無いのかもしれない。
 ナノハナの雑踏にクロコダイルの背中が消えるまで、ナセはずっと、ずっと見つめていた。
「……ナセ」
 立ち尽くしているナセに、ミス・オールサンデーの声が掛かる。
 振り向くと、すぐそこまで船は迫っていた。
「姉さ、ん……」
 茫然としているナセに、ミス・オールサンデーは僅かに顔を険しくさせる。
「“ミス・オールサンデー”よ、間違えないで」
「――!」
 ナセはまた息を飲んだ。そして、俄かに目に涙が浮かんでくる。
「……っ」
 不意に、ミス・オールサンデーはナセを抱き寄せて、突然死刑を云い渡されたと同じ少女を強く抱き締めた。
「……ね、さ……!」
「ごめんなさい……何も出来なくて……! せめてビリオンズとして、ここに居させてあげたかったけれど……!」
 温もりに安堵しながら、ナセはミス・オールサンデーの悲痛な声を聞き、涙を零した。
「っ、姉さん……私、サーの計画の邪魔をしちゃったの……約束を、っ破ったの……!!」
 ポロポロと涙がナセの頬を伝う。後悔と自責の念が襲うのだ。
「約束……?」
 バロックワークスの船が近づいていると云うのに、ミス・オールサンデーは構わず、ナセの言葉を静かに聞いていた。
「約束を破って、船の部屋を出て……海賊が居た、のに……! 出てきちゃ駄目だって絶対に守れって……っく、云われたけど、でもっ」
 音を頼りにしか出来ない状況で、クロコダイルを失うかもしれないと云う恐怖を感じた事をナセは話した。
「捕まった私を庇って、その時だって酷い怪我してたのに……っ、約束を破った私を庇ってサーは……背中に傷を……っ!」
 不意に、ミス・オールサンデーはナセを放し、目を見開いてみせる。
「彼が、庇った……?」
 両手で涙を拭いながら、ナセは頷いた。
 ミス・オールサンデーは“長剣のルーク”によって、クロコダイルが怪我をしたと云う事は知っていたが、その時の状況は知らずに居た。クロコダイルの乗る船が襲われた事は彼自身から聞いたのではなく、レインディナーズの事務所に届いた、海軍からのファックスを見た事で知ったのである。
 それには今回の事件についての報告と、今後の対策等が書かれており、クロコダイルが怪我を負った事に驚いたミス・オールサンデーだったが、ナセの話を聞いて納得がいった。
「……」
「サーの計画の邪魔、しちゃったからっ……私の事嫌いになっちゃったんだよ、ね……? もう、私の名前……呼んでくれない――!」
 しゃっくりをあげるナセの背中を擦りながら、ミス・オールサンデーは何か考えるように目を細めて暫く黙っていたが、港に船が着く音が背後からすると、小さく溜め息を吐いた。

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