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 混乱しているナセに構わず、クロコダイルは話を続ける。
「我が社の事を知っている訳じゃねェが、全く関わりナシでも無ェ。そう云う奴は必ず殺すんだがな……情けでミリオンズにはしてやる」
「みり……おん、ず……?」
 ナセも、クロコダイルの裏の顔について全く知らない訳ではない。何をしているのかは知らなかったが、“何かの会社の社長”――“Mr.0”――として活動しているのは何となく分かっていた。
「解るか? 賞金稼ぎとして生きていく他、お前に道は無ェってこった」
 ショウキンカセギ……と、聞き慣れない単語を呟き繰り返す。
 そんなナセを冷たい目で一瞥し、クロコダイルはコートを翻して海に背を向けた。
「さァ……我が社の社員に、おれとお前が居るところを見られても困る。一足先に帰るとしよう」
 “お前”と云うのはミス・オールサンデーの事らしい。
 静かに町へと歩き出したクロコダイルを見て、それまで茫然としていたナセはやっと状況を飲み込み始めた。
「ま、っ待って……!」
 何故か足は動かず、代わりにカラカラに渇いた喉を震わせる。
「待って! お願いっ、サー……!」
 ついこの間まですぐ傍にあった背中が、少しずつ遠くなっていく。自分を守り、傷が作られた背中――そして熱にうなされている時も自分の名を呼んでくれた声は、一度もその名を口にする事は無い。
 この国から海へ、そして世界へ連れ出してくれたクロコダイルが砂漠へと帰って行ってしまう。
 ナセは息を吸い込んだ。
「ッ――私……っ私、サーの事が好きなの!!」
 思い切り叫んだナセの声が、クロコダイルの足をつ、と止める。
「……」
 背を向けたまま、何処か迷ったように立ち止まっているクロコダイルに、ナセは上手く動かない足を必死に動かして駆け寄った。
「サーが……っサーが好き、傍に居たいの……! もう、サーの計画の邪魔はしないからっ……お願い、傍に居させ」
「ミイラになりてェのか……?」
 必死の懇願を斬りさくように、クロコダイルは恐ろしく冷えた氷のごとき響きを投げつけた。
「サー、」
「その名を二度と呼ぶな!!」
 ヒュッと空を斬り、黄金色の鉤爪がナセの首に掛かる。
「……っ……!」
 ギリギリと鰐のような鋭い瞳に睨まれて、ナセは息を飲んだ。
「自分が置かれている状況が解ってねェらしいな……死にてェなら今すぐここで殺してやってもいいんだぜ? それが嫌なら、おれの云う通りにしろ……!」
 声を殺してクロコダイルはそう云い放つ。その響きは感情をも殺しているように聞こえた。
「いいか……おれは“秘密犯罪会社・バロックワークス”の社長、お前のボスだ。そして、このおれが――王下七武海のサー・クロコダイルが“Mr.0”だと云う事を知るのは、お前とミス・オールサンデーだけだ。それを誰にも洩らすんじゃァねェ……絶対にだ!!」
 有無を云わさぬクロコダイルのオーラに、ナセはただ震えながら小さく頷く事しか出来なかった。
「……フン」
 クロコダイルは鉤爪を離して忌々しそうにナセを見下ろすと、ミス・オールサンデーに視線を向ける。

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