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「……」
 それを、クロコダイルから離れた場所に立ったまま見送ったナセだったが、見送った後もその場に立ち尽くしたままで動けなかった。久しぶりのアラバスタなのに浮かれる気分にもなれない。
 帰らないのだろうか、クロコダイルも海を眺めているだけで動かない。
 いつものように人で賑わっているナノハナの港は、二人の周りだけ酷く静かで人気も無かった。
「――ナセ」
 そこに、聞き覚えのある凛とした声が響く。
「……っ、姉さん!」
 バッと振り向くと、そこには久しぶりに見るミス・オールサンデーの姿があった。
「久しぶりね、長旅で大変だったでしょう」
 嬉しくなって思わず駆け寄るが、彼女の微笑みがいつもと違う事に気付く。
「姉さん……?」
 ミス・オールサンデーはナセの手をそっと握ってくれはしたが、すぐにクロコダイルの方を向いてしまった。
「長旅ご苦労様。怪我は平気なのかしら」
「電伝虫で指示した手配はどうなってる」
 やはり、電伝虫で話していたのはミス・オールサンデーらしい。
 怪我と云うのは“長剣のルーク”によるものだと云う事も知っている風だが、クロコダイルはその問いに眉一つ動かさず、答えもしなかった。
 そして、その低い声はナセが久しぶりに聞くハッキリとしたクロコダイルの声だった。
「……全て指示通りに。もうすぐ船が見える頃だわ」
 心なしか憂いを帯びた声で答え、ミス・オールサンデーは僅かにナセの手を握り締めた。
「……?」
 ナノハナに降りついでにお仕事をするのかな、とナセは思いながら、表情の落ちたミス・オールサンデーの顔を見上げる。
「来たな」
 クロコダイルの声でナセが沖の方に目を細めれば、そこには不思議なドクロのマークが描かれた船が向かって来るのが見える。
 潮風にクロコダイルの葉巻の香りとナノハナの香水を感じながら、ナセはこの場の空気が酷く張りつめている事に不安を感じていた。
「――さて」
 振り向いたその声は気取った社長のようでいて、また判決を下す厳めしい裁判長のようだった。
「お前には“あれ”に乗って貰う」
「……え……?」
 最初、何を云われたのか分からなかった。と云うよりもまず、自分に云われている事に気付かなかった。
「行先はウイスキーピークだ。お前のような貧弱でも少しは役に立つだろう。我が社の資金稼ぎとしてな」
 訳が分からずに、思わずミス・オールサンデーを振り返るが、彼女は脇を向いて目を伏せている。
 ナセは眉根に皺を寄せ、もう一度クロコダイルの方を向く。
「なっ……資金? どう云う事、サー……」
「気安くおれの名を呼ばねェで貰おうか。おれは“Mr.0”――お前のボスだ」
 クロコダイルの冷ややかな言葉に、ナセは目を見開いた。
「……っ! ……!?」
 理解しようとしても、どうしても意味が分からない。云われている事が分かるような気はするが、それでも分からない、分かりたくない。頭が拒否しているのだ。

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