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「……?」
 そっと触れてみれば、その手はゆっくりとナセの手を掴んだ。
「っ!?」
 驚いて見つめるもクロコダイルは起きはしない。ただ苦しそうに息を吸っては吐いている。
「苦しいの……?」
 初めて触れたクロコダイルの手は熱を持っていて、ナセの手をぎゅっと強く握り、放すまいとしているように思えた。
「……ナセ……、……」
 小さく擦れた声が自分の名前を呼んだので、ナセは一瞬目を見開いたが、ふと微笑むとクロコダイルの手を握り返す。
「私はここに居るよ」
 そう囁けば、クロコダイルの眉間の皺は緩み、心なしか安心した表情になったように見えた。
「ふふ、子供みたい」
 ナセは両手でクロコダイルの手を包むと、その手と同じに熱い彼の頬にそっとキスをする。
「起きたら、まず私に怒るんだろうなあ。約束を破っちゃったもの……でも、ちゃんと謝って――許してくれたら云おう……うん」
 ――好き、だと。
「だから早く、目を覚ましてね、サー……」
 目に映るクロコダイルが滲む。
 その指輪だらけのゴツゴツとした手で、自分の頭を撫でて欲しい。そして自分が想いを告げた後に、呆れた様子で笑うクロコダイルをナセは早く見たかった。



 アラバスタの気候海域に入り、海ねこも拝めた軍艦からは既に港町であるナノハナが見えていた。
 ミス・オールサンデーが待っているかもと、ナセは部屋を出て、ゆっくりと近付く町を舳先から眺めていた。微かにナノハナ産の香水の香りが鼻先を掠める。
「ナセ殿!」
 自分を呼ぶ声に振り向くと、海兵がピシッと敬礼している。
「……?」
「サー・クロコダイル殿が目を覚まされたと、船医からお伝えするように云われましたので」
「――っ!!」
 息を飲んだナセが顔を綻ばせる。
「あ、ですが……その、今は誰も部屋に入れるなと申しているそうで……」
「……えっ?」
 思わず聞き返せば、海兵は云い辛そうに表情を曇らせた。
「すぐに起き上がっては傷に障ると船医が申しても全く聞き入れず……先程、お二人に用意した部屋へ入り、電伝虫でどなたかとお話されておりましたが……」
 とにかくお伝えはしましたので! と云うと、海兵は持ち場へと去って行ってしまった。
「……っ」
 ナセは部屋へ駆け出した。
 きっと今、彼は機嫌が悪いに違いない。目を覚まして一番気にかかったのは“仕事”の事だったのだろう。もしかしたらミス・オールサンデーと連絡をとっているのかもしれない。誰も部屋に入れるなと云うのは仕事に集中したかったのか、あるいは重要な話をする為だろう…。
 ナセは自分に云い聞かせた。何故か何処からか湧き上がる不安を打ち消す様に…息を切らせながら、クロコダイルの居る部屋へと向かった。

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