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 晴れ晴れとした陽気の朝。
 しかし、グランドラインを走る一隻の軍艦は、その清々しい空気を切り裂くようなスピードで砂の王国へと急いでいた。
「どう……? サーの具合」
 医務室で、ナセは海軍の船医と話していた。
 至るところを包帯で巻かれたクロコダイルが、その部屋のベッドで眠っている。
「うむ――まあ、背中の怪我は心配無用、軽傷で済んでおるな。さすがはサー・クロコダイル、丈夫な体じゃ。しかし左腕の方は剣を回されとる。これは殺し屋が必ずターゲットを仕留める為のものでな、重傷じゃ」
「っ、そう……」
 船医は涙ぐむナセを見ながら優しく微笑み、顎に生えた白髭を撫でる。
「しかし命に別状があるわけではないからの。ただ、怪我のせいで高熱を出しておる。それに加え、能力者であるクロコダイルが嵐の中、必死に戦っておったのじゃろう? すっかり衰弱状態じゃ。とりあえずは鎮痛剤と栄養剤を打ってクロコダイルの体力回復を待つしか……」
「私、サーの看病する! 何をしたらいいの、ドクター」
 ナセがそう意気込むと、船医は目を細め、何度も頷いた。
「そうじゃのう、では――」



 ルークが軍艦を襲い、結果として海へ散骨となった事件の後。
 ナセは軍艦の中を駆け回り、僅かに息のある海兵を見つけた。救助要請を電伝虫でして貰うと、一時間と経たない内に一隻の軍艦が猛スピードでやってきた。
 その頃にはもう、嵐など無かったかのような天気だったが、それが余計に船の上を惨劇に見せていた。救助の為に乗り移って来た海兵らは、その光景に思わず息を飲んだ。海兵がそこら中に倒れているのもそうだったが、あのクロコダイルが血を流して横たわっているのが信じられない――そんな様子だった。
 すぐさまクロコダイルは新たな軍艦へ運び込まれ、船医によって治療を受け、一命を取り留めた。
 ルーク海賊団にやられた海兵は沢山居たが、恐ろしい事に殆どの者が息が無かった。だが、“長剣のルーク”に軍艦が襲撃され、七武海のクロコダイルが重傷を負った事はいつになっても新聞に載らなかった。救助の軍艦に乗っていた海軍本部の少将は、ナセに“この事は内密に”と云い、元帥・センゴクではなく“政府”からの指示だと苦々しげに話した。
 それから数日、クロコダイルは目を覚ましていない。
 ナセは船医に教えられた通りに必死にクロコダイルの看病をしていた。包帯を取り替え、熱にうなされる彼の汗を拭き、水を飲ませたりと、忙しく彼女なりに頑張っていた。
 ――私が部屋の外に出なければ、こんな事にはならなかった……。
 後悔の念がナセを苦しめた。クロコダイルの流れる血を思い出すだけで涙が溢れる。
 夜はクロコダイルの傍に居続け、あまり眠る事は出来なかった。

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