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「ひゃっ……!」
「もう少し待ってろ、ナセ」
 クロコダイルに抱き抱えられたままのナセは、背筋がゾクリとする冷たい声に固まると、彼のコートを必死に握った。
「……っ」
 そして、自分を抱えるクロコダイルの左腕が、さっきからずっとガクガクと震えている事にも気付いていた。剣が刺さっていた場所は血が止まる事なく無残な傷となっている上に、甲板には背中の傷から流れた血が足跡のように続いていて、ナセは思わず目を背ける。
 ルークの船の上に飛び降りたクロコダイルは、船員を気にもせずに、その濡れた甲板に右手を添えた。
「侵食輪廻――グラウンド・デス――!!!」
 次の瞬間、その右手が添えられた部分からメキメキと船が軋み、嵐の後の濡れたマストや帆が水気を失ってゆく。
 カラカラとした匂いをナセが感じた瞬間、船が崩れながら砂となっていった。
「うわァあああああ!!!!!」
 船員達は暗い夜の海へと投げ出され、強くうねる波は非情にもその声を消していった。
 船が砂になる直前に軍艦へと戻ったクロコダイルとナセは、その光景を黙って最後まで見つめていた。
「……――わっ!?」
 不意にクロコダイルの体が傾き、ナセとクロコダイルは甲板に倒れ込む。
「……サー!? 傷が、手当てしなきゃ……!」
 甲板に体を打ちつけたナセは、その痛みも気にせずにクロコダイルの頬に触れ、その冷たさに驚く。
「ち、血を止めないと……そうだ、海兵さん達はっ……!?」
 頬に当てたナセの手に、クロコダイルの手がゆっくりと重なる。
「ク、ハハッ……悪ィな、ナセ……ハァ……少し、おれは……ゼェ、寝かせて貰う……ぜ」
 途切れ途切れにそう云うとクロコダイルは弱々しく笑い、目を閉じた。
 それに弾かれたようにナセは体を起こすと、シンとした辺りを見回す。耳には止み始めた強い風の名残が響く。
 海兵が生き残っているかは分からなかった。しかし全滅しているのなら海軍本部に応援を要請しなければ、このまま航海は出来ない。それに、クロコダイルの命も危うい。
 ナセはそっとクロコダイルの手を放すと立ち上がり、滑る甲板を走り出した。
「っ船医さんは!? 誰か居ませんかっ!? サーの……クロコダイルの治療を――誰か!!!」
 空は少しずつ晴れ始め、グランドラインの静かな星空が、ナセの頭上に広がっていた。




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