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 ――!!!
 小気味良い程に音を立てて、ルークのサーベルは“それ”を斬った。
「――ッ、な……!?」
 だが、ルークは目を見開き、その様子に息を飲む。
「――!? サー……!?」
 ふいに感じた温もりに気付き、ハッと目を開けたナセはその名を悲鳴と同じに叫んだ。
 クロコダイルは甲板に片膝を付き、ナセを庇うようにして抱き抱えていた。その左腕と背中からは絶えず血が流れ出している。
「な……何故だ! おれが刺し回した剣だぞ!!? 抜ける訳が――」
 狼狽えるルークはマストを振り向くが、すぐ傍の甲板には血を帯び、剣先が半ば朽ちた長剣が転がっていた。
「……ハァ、ハァ……」
 クロコダイルはナセを抱き抱えたまま振り向くと、ルークの手元のサーベルをグッと掴む。
「――!?」
 途端にクロコダイルの手から血が溢れるが、それも含めて剣先に滴っていた血は、その手に吸い取られるように消えていく。
「!!?」
 目を剥くルークに、クロコダイルは口角を歪ませた。
「……ハァ、ックハハ……何も雨に打たれているからと、能力が全く発揮出来ねェ訳じゃあねェんだぜ……少々体は云う事を聞かねェがな。鍛え上げてこその能力だろう……? ハァ」
「……な、にッ、うァ……!!?」
 悲鳴を上げたルークのサーベルは、クロコダイルが掴んだところから砂に変わり、風に飛ばされていく。
「雨が……!」
 ナセは飛んで行く砂にふと気付き、顔を上げる。
 いつの間にか雨は止み、雷鳴は遠のいていた。今は風と未だ荒れ狂う波だけである。
 クロコダイルはそれに気付いているのかいないのか、呼吸を途切れ途切れに言葉を続けた。
「お前みてェなルーキーは……腐る程居るんだぜ、ルーク……!」
 もはや攻撃する術を持たないルークの首元を掴むと、クロコダイルは冷たく云い放つ。
「っひ!」
「お前の死にザマはミイラじゃねェ――砂だ」
「!!」
 ナセの目の前で、ルークはしおしおと水分を失ってゆき、ミイラになり、そして――砂になってクロコダイルの手からサラサラと風に流れていった。
「…………」
「ッうわああ!? お頭が、やられたァ!!!」
 その瞬間、一斉にルーク海賊団の船員たちが次々と自船に飛び乗ってゆく。
 クロコダイルは命からがらと逃げ散ってゆく彼らを見ながら、無言で腰から下を砂にし、ルークの船に飛び移る。

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