52
「何故、ハァ……出てきた!!? ナセ……ハァ……!」
 弱っていると分かるクロコダイルに思い切り睨まれて、ナセは泣きそうになる。
「だって……わっ!!」
「ナセ!!!」
 痛みに歪むクロコダイルの顔も血も見た事が無いナセはその場に立ち竦み、たちまちルークの船員によって捕えられてしまう。
「くっ……そいつに手を出すな!!!」
 喉が張り裂けんばかりに叫ぶクロコダイルに、ルークは肩をすくめて、せせら笑う。
「王下七武海様がこのザマとはな……お前はそこで見物でもしてやがれ!」
 そう云うと、ルークはクロコダイルの腕に刺さっている長剣を、グッと思い切り回した。
「ぐあああああッッ!!!」
「サー!!!」
「フ、フフッ……ッハハハハ!!!」
 ルークは流れる血を見ながら高らかに笑い、ぐったりと頭を垂れたクロコダイルに背を向けると、今度はナセの方に向かって来た。
「!!」
「お前はどうしてやろうか、小娘」
 手下から一本のサーベルを受け取ったルークは、濡れる刃先を布切れでゆっくりと拭く。
「ッや……!」
 ナセは目を見開いて逃げようともがくが、後ろ手をガッチリと掴まれている為に何にもならない。
 激しい痛みと雨による体力の消耗で、意識を失いかけていたクロコダイルは、ナセが狙われている事に気付き、ハッと顔を上げた。
「おい! やめろ!!!」
「……サーっ……!」
 ここまで必死なクロコダイルを見た事が無かったナセは、思わず涙を滲ませる。
「ハハハ、お前にトドメを刺すのはこのガキの後だクロコダイル。おれは“海賊”だ――お前のように、こんなガキに現を抜かしている七武海なんかよりずっと! おれは“海賊らしい”! そのおれの手で、お前を絶望に堕としてやるぜ」
 ルークはサーベルの切っ先をナセの喉に近付け、クロコダイルを振り向くとニヤリと笑う。
「大事な女が血に染まる瞬間なんか見たくねェだろう? このガキが倒れた時、お前の顔が苦痛に歪み、そしておれにトドメを食らう。“新世界出身・長剣のルークから女を守れず七武海敗れる!”ってな……明日の新聞、一面におれの名を飾らせて貰おうじゃねェか」
「ヤっ……いやァっ!! 助けてッッ!!!」
 もはやナセは恐怖しか感じなかった。斬られた事など無い、怖い、もはやクロコダイルに助けを求めるしか出来ない。
「クソッ! 腕が……!!」
 クロコダイルは右手で何とか剣を抜こうとするが、深く突き刺さった剣は微動だにしなかった。その上、回されている為に無理に抜こうとすれば、腕が千切れてしまうだろう。
 普段なら、剣が刺さったとしても右手で水分を吸収し砂に変えてしまうだろうが、今はその力を発揮する事もままならなかった。
「そんな簡単には抜けねェぜ? まァ心配するな、このガキはお前のように苦しませはしねェからよ……!」
 ルークがサーベルを振りかざすのと同時に、手下はナセを拘束していた手を放した。ドンッと突き飛ばされたナセは甲板に倒れ込む。
「う……ッ!」
「一瞬で、葬ってやらァ!!!」
 サーベルが風を切り、雨の雫が飛ぶ。
 ナセは声も出ずに息を飲み、そしてギュッと目を瞑った。

- 52 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -